東郷和彦『歴史と外交』,メトロン星人

先日,天皇陛下ご成婚 50 周年のテレビを観ていて,感銘を受けた。そこで,日本の戦後ということについて少し読んでみようと思った。講談社現代新書から出たばかりの本,東郷和彦『歴史と外交』(講談社, 2008)。著者は長年にわたりロシア外交に己を捧げたエリート外交官である。本書を読んで知ったのだが,その祖父は,太平洋戦争開戦・終戦当時の外務大臣,東京裁判でA級戦犯とされた東郷茂徳である。

靖國問題,慰安婦問題,東京裁判,日韓歴史問題,等々について述べられている。ここが大事な点であるが,著者の個人的人生経験と良心,学識から来る率直な思いを述べるとともに,現代日本は,慎重で良心的な思考・判断に基づいて日本全体のコンセンサスを作らなければならないとしている。右と左に分かれてそれぞれ非難し合う場合ではない。そもそも日本全体のコンセンサスなんて不可能だと私は思うけれど,一方で東郷の真摯な主張は尊いと思わずにはおれない。

靖國問題,竹島・尖閣諸島領有問題,歴史観を巡る中国・韓国による反日的行動,とくに北朝鮮による拉致問題,核開発・ミサイル問題への反発から,世の中が目に見えて右傾化している。テレビ番組においても,露骨な反中・反韓論を展開する識者も珍しくないし,中国・韓国・北朝鮮を武力で大人しくさせるための環境作り(要するに憲法 9 条改正,スパイ防止法制定,排外主義的入出国管理法改正,軍拡)をすべきだとか,核武装論までが出る始末である。それを支持するひとたちは,村山談話に代表される軍国主義的侵略への反省・歴史観に対して,自虐だとか平和ボケだとか「日本の常識,世界の非常識」だとか批判している。それとともに醜い排外主義もまかり通りはじめている(いまや「カルデロン親子は日本から出て行け!」などと呼ばわる排外主義デモが起こる時代なのだ。いくら不法滞在していたにせよ,この苛め根性丸出しには身の毛がよだつ)。まあ,中国も,韓国も,北朝鮮も政府の反日プロパガンダに煽られて,ことあるごとにガサツな反日ショービニズムを発揮してくれるわけだから,日本も少しくらい悪ノリしたって罰はあたらないと思う。

けれども,国際平和主義・憲法精神に反対するこの方向に世の中全体が本気で傾くとしたら,どうだろう。やっぱり日本は再び不幸な結末を迎える道を歩むことになるのではなかろうか。それは,憲法が則る国際平和主義はサンフランシスコ平和条約で行った,日本の世界に対する「約束」であり,それを国際世論の大勢の同意なくして破ることは,自分の首を絞めることに繋がるからである。資源を他国に依存する貿易立国日本は国際社会の信用を失うと生きてゆけないのだ。よって,敗戦からの再出発で立てた原理原則は — 米国の強制によるものかどうかは別にして —,天皇陛下のお姿の通り,崩してはならないのではないか(その意味で,小泉さんも安倍さんも麻生さんも村山談話を政府として踏襲すると発言したのは「保守」として当然のことである)。

東郷は日本はまだ自分自身で第二次大戦の責任追及を十分にしていないと書いている。それが靖國問題を外交問題に発展させ,中国・韓国との真の和解が果たせない結果になっているとしている。改憲にせよ,歴史問題にせよ,日本人がその偉大な過去の経験と良心に基づいて導いた思想を,国際社会にきちんと主張し,合意を得た上でやるべきだという思いを強くした。

* * *

最近,YouTube をよく観ている。サッカーの珍プレー映像で大笑いする。加藤周一立花隆が東大で行った講演なんかも視聴でき,啓蒙されることもある。昔の懐かしい映像がアップされていて感激する。

今日何気なしにブラウズしていたら,『ウルトラセブン』のクリップを見つけた。貧相なアパート — 今になって,この昭和臭ぷんぷんのアパートの所在はどうも木場界隈らしいのに気づいたのだが — で諸星ダンとメトロン星人とが,ちゃぶ台越しに対峙して議論する,あの有名な場面である。私は幼稚園のころ白黒テレビで『ウルトラセブン』を熱心に観ていたのだ。親に買ってもらったウルトラセブンのフィギュアが,その顔に往時の稚拙な歪みがあったからか,動き出すのではないかと夜中には怖くて仕方なかった。その一方で,「アンヌ隊員,べっぴんでおっぱいでかいなー」なんて馬鹿なことを,近所の友達と言い合ったものである。五歳の子供でも,そんなもんです。

メトロン星人,愉悦に溢れるフルート協奏曲を BGM に,曰く「我々は人類が互いにルールを守り信頼し合っていることに目を着けたのだ。地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感を無くすればよい。人間たちは互いに敵視し傷つけ合い,やがて自滅して行く」。中国人も韓国人も日本人もメトロン星人の「赤い結晶体」に冒されているようだ,とはたと気づく。深いですね。「なかにはダンがいるんだな」とわざわざ確認しておきながら,宇宙船を躊躇いなく撃墜してしまうウルトラ警備隊。正義はコワイですね。中国の温家宝首相は孫がウルトラマンにばかり夢中になっているとこぼしているそうである。妙な感動を覚えます。