陛下ご結婚 50 周年

今日,4 月 10 日は天皇陛下のご結婚から 50 年の日。ご会見の様子をニュースで見た。

皇室の区切りとなる儀礼,催しの話題が出ると,必ずかつての国事行為のトピックが回想される。今日のテレビ番組でも,昭和 34 年の馬車行によるご成婚パレードの映像が流れていた。その他,平和への祈りを中心に据えたご公務の記録映像を見ていると,心底私は感銘を受ける。1975 年皇太子時代の沖縄訪問での火炎瓶事件のエピソードなどに伺われる,戦争の負の遺産を引き受けるあの腰の据わり方。平和憲法の精神に対するブレのなさ。つまり,時代が目に見えて右傾化し改憲論が喧しい昨今,戦後の一貫した皇室のお姿には,立ち戻るべきなにかを考えさせられるのだ。それは,ひとたび天皇陛下自身が国民と世界に向けて発した以上,微動だにせず依拠しようとする憲法という原理原則である。その精神は,即位の礼での宣明においても,明らかだった。

1975 年を最後に,以来天皇陛下は靖國神社御親拝をしていない。それは,1978 年の A 級戦犯合祀に対する,昭和天皇の不快感と関係があるとの説がある(「富田メモ」をシンプルに解釈すれば明らかな,この戦犯合祀不快感説は,戦勝国による苛めともいえる東京裁判において「A 級戦犯」とされた軍人・文民そのひとたちに対して,陛下が愛情と信頼を寄せていた,ということと必ずしも矛盾しない)。1979 年のソ連によるアフガニスタン侵攻などの,冷戦時代の新しい局面を受けて,時代が大きく右傾化し,中曽根首相の靖國公式参拝などで戦後レジームから日本国自身が脱却を図りはじめたころである。このころから中国・韓国との間でも「歴史認識」が大きな火種になりはじめたと思う。このような時代背景のなかで御親拝がなされなくなったということからして,思うに,皇室は一種独特の国際感覚をもっているだけでなく,今となって見れば,戦後スキーム(新憲法,サンフランシスコ平和条約等々に基づく戦後日本の出発点)の原理原則に対し,実にブレなく,忠実に行動しようとする一貫性が伺われる。戦後スキームからの逸脱と,米国,中国,韓国,フィリピンその他の国々へのその影響を,世界のなかでの日本の立脚点の動揺を,昭和天皇が敏感に察知なされたのではなかったか,と思われるのだ。

靖國問題を日本人自身の総意で整理し,中国・韓国と和解できたとき,再び御親拝がなされるような気がしてならない。天皇陛下のために亡くなった英霊を天皇陛下がお参りできないこのねじれ現象。保守政治家は,己の政治的主張で左派を非難し靖國神社参拝を政治利用するのではなく,天皇陛下に御親拝いただく環境作りをすることこそがその務めではないだろうか。

こんなことを書いていると右翼だとか,左翼だとか,根も葉もないことを言われそうなので,皇室雑感はこのへんで。とにかく,陛下ご結婚 50 周年,おめでたいことに違いない。

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幼い頃,母が「皇太子と美智子さんのパレード,見とうて,見とうて,ほんま堪らんかったんやけど,仕事で見られへんかったんやー」と言っていたのを思い出す。父母も来年,結婚 50 年である。今年は妻の両親が金婚式を迎えるとあって,お祝いをどうするか思案中である。

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※ 4.25 付記

これにからんで,1999 年 11 月 12 日に行われた天皇陛下御即位 10 年記念祝典の映像を YouTube で見つけた。X Japan の YOSHIKI さんのピアノ演奏の様子である。楽曲は『奉祝曲 Anniversary』。厳かな弦によるテーマの導入にはじまり, 時代の紆余曲折を象徴する調性の変転を経たのち,輝かしい未来を言祝ぐフィナーレで終わる。祝祭に相応しい名演である。功も名もある現代音楽作曲家(第一芸術の担い手)ではなく,日本のロックを代表する音楽家にこれを書かせ,演奏させたプロデューサの才覚にも拍手を送りたい。この曲は CD: YOSHIKI "Eternal Melody II" に収録されている。

Eternal MelodyII
YOSHIKI
コロムビアミュージックエンタテインメント (2005-03-23)

この YOSHIKI さんの参加について,東京大学のとある先生グループが「国家総動員」の危険性を嗅ぎ付け,質問状を YOSHIKI さんに送って警鐘を鳴らしたそうである。祝祭に我を忘れるひとがいる一方で,冷や水を浴びせるひともいる。健全な社会である証拠だと思う。

このころ私は,西暦 2000 年問題対応の最終行程にあり,仕事でキリキリ舞いしていて,世の中の姿がまったく見えていなかった。YouTube 映像のなかで,皇居の向こう側,官庁街にオフィースの煌煌とした灯りを認めて,「ああ,みんな Y2K 残業してやがる」と思うのは私だけか。それから十年を経たいま,こうした記録によってしみじみと当時を振り返るばかりである。


Posted by joui2669.