尾高賞 30 周年記念 N 響コンサート '82 の録音を聴く。CBS ソニーから出たアナログ・レコード『日本の現代管弦楽作品集』。これは,山田耕筰,近衛秀麿から伊福部昭,芥川也寸志を経て,一柳慧,吉松隆に至る日本現代音楽の回顧展ともいえた。指揮は外山雄三,管弦楽は NHK 交響楽団である。
私はこのコンサートを NHK によるテレビ中継で観た。吉松隆という才能の登場に大いなる感激を覚えた,私の記憶に残るコンサートだった。吉松隆『朱鷺によせる哀歌』は,鳴き交わし羽音をたてる朱鷺と,その背景にある荒涼とした雪原を,幻想的にイメージさせる傑作だった。なんと切ない美しさだろうか。この感情はモーツァルト,ベートーヴェン,マーラー,シェーンベルクにだって表現することができない。時代に生きる者の心の琴線に触れるのはやはり現代音楽,同時代の音楽なのだと思い知った。吉松は武満徹を襲う唯一の作曲家だと,私は確信したのである。
このレコードに収録されている曲で,私は三善晃の『ヴァイオリン協奏曲』もお気に入りである。数住岸子によるヴァイオリン独奏は,この曲のよい新録音がない(1960 年代の,黒沼ユリ子,海野義雄の独奏によるレコードしかない!)なかにあって,最高の名演である。いまやこの録音が絶版となってしまい,入手できないのは残念である。敬愛する女流・数住岸子のディスコグラフィーにおける,私にとっての最高の盤のひとつ。
吉松隆『朱鷺によせる哀歌』は BBC 交響楽団の演奏で以下の CD が入手可能である。私は上の NHK 交響楽団によるライブ演奏が忘れられない。
BBC Philharmonic Orchestra
Chandos (1996-03-19)
※ 4/30 付記
Amazon で調べたところ,『日本の現代管弦楽作品集』は CBS ソニーから CD が発売されていた。ただし,こちらも品切れのようである。参考までにリンクを貼っておく。中古はプレミアが付いてバカ高い。再リリースを待った方がよさそうである。
NHK 交響楽団
ソニーレコード (1991-01-21)
masayuqui
共感を覚えましたので足跡を残させていただきました。
isao
masayuqui さま,ありがとうございます。
数住岸子のシベリウスをお聴きになったとのこと。私は生ではチャイコフスキイを聴きました。でも,もうひとつ,彼女が原田幸一郎他の演奏家と組んだバルトークの弦楽四重奏曲集,フランクのピアノ五重奏曲は,私がかつて聴いたどれよりも素晴らしい最高の名演でしたよ(もう 20 年も前のことです。彼女はヴィオラを弾いたのですが)。
同じ演奏家を通して同時代の音楽を同じように受けとめておられる方がいる,と知るのはうれしいものです。