人間トハヨク燃ユルモノ

人間とは何か,と問われてどう答えるか。愛の存在である,こころをもつもの,理性的なるもの,などなど,まっとうな人ならその類いの答えを返すのではなかろうか。

学生時代の俺のある友人は「よく燃えるもの」と言った。異界に誘い込まれるような雰囲気をもった男だった。彼はいつも不思議な女を連れていたものである。女は共産党のシンパで,長い黒髪のぞっとするような白皙の美人だった。いつもダサい紺の adidas ウィンドブレーカーを着て,煙草を吸いながら,学生集会でメガホンを持って意味不明なアジをがなり立てていた。

俺の友人にせよ,その共産党女にせよ,世の中にはよくわからない人がいるものである。その女のこころに仮託して詠んだ歌をふと思い出した。

 人間ハヨク燃ユルモノと云ふ背なの愛ほしと思ふ夜の哀しき

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清明の雨の夜,Johann Sebastian Bach の Das Musikalisches Opfer に針を落とす。Gustav Leonhaldt の 1974 年の SEON 盤。スコアを眺めながら謎めいた KONTRAPUNKT に耳を傾ける。少し妖しい気分になる。というのも,昨夜,色付きの奇妙な夢を視たのである。俺は,誰かに命を狙われ,追われる恐怖のなかで,共産党員の女と性交していた。女は激しい吐息とともに,俺の眼を視て何かを訴えていた。「人間とは…よく…燃えるもの…」。

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バッハ:音楽の捧げもの
グスタフ・レオンハルト
ソニーレコード (1997-12-12)