石川美南歌集『離れ島』・『裏島』

黄金週間。五月二日の今日,妻はカレンダー通り出勤だったが,大企業に勤める俺は特別休日。石川美南の歌集『離れ島』と『裏島』を拾い読み。本阿弥書店,2011年同時刊行。なかなか楽しいひとときであった。これは,妻からもらった本。

「発車時刻を五分ほど過ぎてをりますが」車掌は語る悲恋の話(『離れ島』,「物語集」より)
持ち込みは禁止ですよと冬の木が裸の腕を広げて立てり(『離れ島』,「友の諸相」より)
セキュリティソフト更新する間にも桜はなびら散るから困る(『離れ島』,「カラフル」より)
左,右,右斜め下,見えません。あなたの背中遠く滲んで(『裏島』,「鳥」より)
「二号室の吉村ですが寂しくてもうぢきカツオドリになります」(『裏島』,「鳥」より)

俳句は絵。短歌は抒情。そんな既成概念がある。しかしながら,この歌人の短歌には,日常の瞬間にふと脳髄に湧いた物語の断片のような味わいがある。

OLが上司に叱られている。申し訳なさそうに彼の顔をふと盗み見たら鼻毛がひゅーいと出ていることに気づいたその瞬間,裸の王様が川におしっこをして終わる物語が五七五七七で彼女の頭に涌き起こった。そう,そう,あたかもそんな感じの,愉快で,狂気じみた,日常の非日常化の結晶のような作品群。

なんのこっちゃようわからんけど,愉快,愉快。装丁もいい感じ。

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