川崎大師・金山神社初詣,映画『OMOCHA オモチャ 大人玩具』

今年の正月も食って寝てばかりいた。三日に川崎大師に詣でたのが唯一の外出だった。今回は大師さまのあとに,そのすぐ西にいったところにある金山神社にも参詣した。私は,金山神社に向かう道すがら,娘に「おめえが喜びそうなところへ連れて行ってやる」と思わせぶりを言って,期待をもたせてやった。

金山神社はご神体が男根であることでその名を知られたお社である。社殿のすぐ脇に,カリも見事な男根モニュメントが立っている。商売繁盛,子授け,安産,縁結び,夫婦和合,性病快癒のご利益があるそうである。東海道・川崎宿の江戸のころから岡場所の私娼たちが性病除けの願掛けをしたそうである。いまでも同じように堀之内や南町(川崎の色街)のソープランド嬢たちがお詣りしているのかは知らん。絵馬の書き込みを調べてみると「今年こそあけみちゃんと熱い一夜を過ごせますように」に類したものが多かった。

金山神社で毎年四月に催される「かなまら祭」では,巨大な男根の突き出た御神輿をニューハーフのお姉様たちが担ぐ奇観が眺められるので,海外からもたくさんの見物客が訪れ,ブロンドの女たちがペニス形の飴をペロペロ舐めながら御神輿に見蕩れているそうである。

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川崎大師(大本堂,献香所)/金山神社
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この正月休みは,竹内力主演の東映Vシネマの名作『ミナミの帝王』を観まくっていたなかで,もう一作,興味深い成人映画(というより,ビデオ作品)を観た。『OMOCHA オモチャ 大人玩具』。佐髙美智代監督・脚本,小川あさ美主演,2014年,オールインエンタテインメント製作作品。R-18 のレイティング指定のあるピンク映画に分類されるものである。そして,いつもはAVに出演している女優が配役を担っており,自慰のシーンがいくつか出て来る。

ピンク映画は性交シーンに雑なストーリーをくっつけただけの粗末な作品ばかりなわけだが,本『OMOCHA』は,意外にも,おそろしく啓蒙的な意気込みのある映画である。オモチャとは,ここでは女性自慰用のバイブ,ローターのことである。

森園寿々(小川あさ美)は作家を目指していつか自分の本を出すことを夢見ているが,心なくも風俗ライターとして食いつないでいる。あるとき知人の紹介でラブグッズ(大人のオモチャ)製作会社 RINET に入社することになる。正社員という待遇が魅力なのだった。彼女は RINET の女社長・中瀬川凛(かすみりさ)から入社早々いきなり自社製のラブグッズ,すなわち,かおるちゃん(バイブ),ソフィヤちゃん(ローター)の試用レポートを書くよう命じられる。しかし,寿々はセフレがいて自慰をする必要性を感じず,さらにオモチャを使うことに抵抗があり,レポートにも身が入らない。

その態度に対し,オモチャ愛好家にして RINET 開発担当である原島果歩(安城アンナ)から手厳しい批判を浴びて,寿々は物書きとしての自尊心を傷つけられるも,オモチャのレポートに真摯に取り組むようになる。その一方で,寿々は,親友・江藤由梨菜(桜ここみ)が専門学校時代にレイプされて以来男性恐怖症に陥っていたが,ラブグッズで性的絶頂感を知ることで立ち直ることが出来た,というエピソードを聞かされる。さらに,社長が夫のDVに悩まされた過去を持ち,果歩も痴漢体験により男性不信になった,というようなことを知るに及び,男性による抑圧で病んでしまった女性が己を回復させる,そういう潜在力がオモチャにはあるということに思い至り,先入観・偏見を脱してラブグッズの開発企画の虜になってゆく。

果歩の言葉を通して,作品のテーマが歴史的根拠とともに語られている — ラブグッズの起源は英国ビクトリア時代のロンドンで女性のヒステリー治療のために作られた医療器具であり,当初は医師が患者の股間をマッサージして治療していたが患者が増え過ぎて人力では手に負えなくなり自動マッサージ器として進化したものである。女性が男性によって過度な抑圧に晒されていた時代背景があった。女性が男性と交わるリスクを回避できる(映画ではリスクの具体例の言及がないが,男の乱暴な性行為によって女性の身体に損傷を来す,性病に罹患する,などを想定していると思われる)のでこの自動マッサージ器は女性の幸福に値する。云々。

作品の大まかな筋はこのようなものである。

この作品が単なるエロではなくいかに真面目なものかというのは,男性から不当な抑圧を受けて病んだ女性の性と心のケアの問題のみならず,手足の自由のきかない女性に対する性的介護とそのためのラブグッズの位置づけについて触れているところでわかる。

オモチャで「救われた」由梨菜は介護士として介護サービスを行っていた寝たきり女性に対し,時折ローターを使って性的欲望を満たしてやっていた。ところが,これが彼女の家族にバレて由梨菜は家族からクレームを受け介護会社をクビになった。そういうエピソードがある。性的欲求は家族にも相談できないきわめてデリケートな問題である。介護の現場ではこのようにタブー視さえされている。しかし,たとえ身体が不自由であっても性的欲求を満たせるのがあるべき姿であり,それをサポートする介護だって必要ではないか。こうして,寿々は性的介護サービスの新事業を社長に提案し,介護士資格を有する由梨菜を雇い入れて,彼女にその役を担わせる。

もうひとつ,この作品の魅力は,一見くだらないようにみえることがらでも,プロとして真摯にそれに取り組むことで何かが拓けて来ることを,ごく自然に表現しているところである。ラブグッズというものを軽んじていた寿々に対する,果歩の手厳しい台詞が堂々としてカッコよかった —「やる気あるんですか? オモチャのレポートは恥ずかしくて書けないということですか? あなた,この仕事ナメてますね? レポートひとつ書けないで物書きぶるのはやめてください。あなたはオモチャを使ってオナニーするのが恥ずかしいとか汚らしいとか思っているんですよ!」。

そう,プロの道に貴賎なし。その道のプロとして真摯に技を磨いている人たちは,ラブグッズの開発者であれ,風俗嬢であれ,仮に世の中から斜めに見られていようとも,人間としてカッコいいと思う。私はその学歴やら職業やらのステータスだけで優越感に浸っているつまらない奴らをゴマンと見てきたので,プロはプロの技を見せてくれよ,とつねに言いたくなるんである。

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