『宋詩選』漢詩体系・第十六巻,集英社,昭和四十一年。
宋代の詩は,文人の孤独な心象を水墨画のような風景に託して表現する,凛とした厳しさにその魅力がある。ここでいう文人とは,中国の伝統において,高雅な趣味と教養を持ち合わせた,下野した政治家・官人のこと。中国の文人は,日本の文人,すなわち,ノンポリ有閑階級知識人とは一線を画している。
禅林の詩人・惠洪(えこう)の一首だけ引用しておく。現代語訳は若干短くしてある。
江天暮雪 — 惠洪 (1071-1128)
潑墨雲濃歸鳥滅 墨を潑すごとく 雲濃く 歸鳥滅す
魂淸忽作江天雪 魂清うして 忽ち江天の雪を作す
一川秀發浩零亂 一川 秀發して 浩 零亂
萬樹無聲寒妥帖 萬樹 聲無く 寒 妥帖
墨汁ちらす如く黒雲は広がり,ねぐらに帰る鳥の群れも姿を消した
からだのしんから冷え込んだと思うとたちまち川の上空から雪
一本の川筋だけがはっきり見え,あとは雪片が舞い狂う
あらゆる樹木は雪に覆われ,物音なくなり,寒さも落ち着いて来た
『宋詩選』漢詩体系・第十六巻,集英社,昭和四十一年,342 頁