情報セキュリティ事故

私が取りまとめているプロジェクトで情報セキュリティ問題が起きた。担当者が,禁止されたソフトウェアを配布 PC にインストールしようとして,それがセキュリティシステムに検知されたのである。保全すべき情報が外部流出してしまう事態ではなく,事象そのものだけをみると,他愛ない軽卒な行動と思われるかも知れないが,情報セキュリティに異常に敏感になった昨今の企業情報運用においては,決められた規準に違反する行為そのものが,許されざる悪として糾弾されるようになっている。「なんだそれくらい」なんて暢気に構えていると,とんでもない目に遭うのだ。

その担当者は二十代後半の若者で,たいへん優秀である。ここ七,八年に入社した若者は,就職氷河期を生き抜いた強者が多く,仕事を遂行する能力,仕事に取り組む意識のいずれをとっても,私が入社した二十五,六年前と比べても,遥かに質が高い。この青年に大いなる信頼を寄せていただけに,私は今回のセキュリティ規準違反にいたくこたえた。彼の管理者である私自身,彼に事前に顧客セキュリティ規準を十分に徹底できていなかった点が悔やまれた。「今回は反省しろ。でも,へこむな」。客観的にみて,管理者が悪い。

この問題の報告,再発防止策の検討,その対策の社内展開と実行,等々で,今週は毎日午前様の状態だった。これまでプログラム不良,システム設定不良,ハードウェア故障等で大事故を起こし,顧客に謝罪し問題の対策を行うにあたって死ぬる思いをしたことは数知れないわけだが,人間的行為の延長で障害が起きると,本当に身を削る責め苦を味わわされるものである。社内でも大問題に発展してしまい,本件も幹部にエスカレーションされ,私はお偉方からむちゃくちゃ叱られてしまった。ま,このようにしてプロとしての技術者意識が高められて行くのではあるが。

それにしても,悪いのは,問題を起こした担当者,その責を負うべき管理者である私なんだけど,営業主任はつねに私に付き添って顧客への謝罪と今後の対応についてフォローアップしてくれた。営業というのは会社の顔だからだ。会社というのはそういうものである。この営業主任もやはり二十代後半の女性で,責任感が強い。問題の動機的原因や,顧客と弊社との規準の差異などの調査で,私の報告書作成が遅々として進まない状態でも,文句ひとつ言わず,別の仕事をしながら,終電の出る頃合いだというのに,報告書が出来上がるのをいつまでも待っている。旧帝大系有名国立大学を出たのに安月給に甘んじながらこうした辛い毎日を強いられている若い女性が,自分の人生をいったいどのように思っているのか,私は心配になる。でも,「あああ,こんな生活してたらお肌が荒れて困りますよ」と冗談を飛ばして彼女は笑っている。

昨夜,再発防止策を含めた報告で顧客の了解が得られ,やっと問題が一段落した。あとは,各部署に展開した再発防止策がきちんと遂行されているかを刈り取る状況である。