わが齢氷る辺土に年送る — 豊玉
豊玉とは,かの新撰組の武人・土方歳三(1835-1869)の俳号である。「精悍な武人の悲憤慷慨の情」と村山古郷はこの句を評している。箱館(函館)五稜郭での官軍との戦いで二発の弾丸を腹に受け,新撰組の盟友に看取られて土方は戦死した。死に臨んだ彼の背中から血に染まった一枚の短冊が出て来た。次はそれにしるされた一句。
たたかれて音のひびきし薺(なずな)かな — 豊玉
「数え年三十五の生涯の最後を飾る風雅の十七文字であった」(村山古郷)。幕末・明治の侍は血腥い歴史に名を残している一方で,俳諧を嗜む風流人でもあった人が数多く,明治黎明の俳句史は土方歳三などの幕末武士俳人から語り始められている。土方歳三のような壮絶な風流人 — 痺れるくらいかっこいい。
本日の一冊。村山古郷『明治俳壇史』角川書店,1978年初版。
村山古郷『明治俳壇史』/土方歳三