七夕は雨こそ降らなかったが,宵月も限りなく朧ろな夜だった。溽暑がぶり返した。西方では大雨の災害が出たとか。台風 8 号の警報も発せられ,とてもロマンティックな気分ではない。
牽牛と織姫も会えずじまいだったことだろう。天帝は織姫を哀れんで牽牛に添わせた。ところが,二人は,若い恋人たちの常として,どうもそればかりに励んだためか,織姫は機織りをさぼるようになり,怒った天帝は,年に一度,七月七日の夜にだけ二人が会うことを許した,とか。
かわいそうな牽牛・織姫を思って,七絶を捻る。水学も乗り物貸さん天の川(芭蕉)。
七夕節 — July 7, 2014.
繾綣綢繆一褥中繾綣 綢繆 トシテ一褥 ノ中
香烟蔲蔲曉窗風香烟 ノ蔲蔲 曉窗 ノ風
天河月落恨霖雨天河 月落チテ霖雨 ヲ恨 ミ
復眺山閒花濕蒙復 タ山閒 花濕 リテ蒙 キヲ眺 ム
慕い纏わりつき ひとつ褥のなか
気香ばしいショコラ 明け方の窓の風
天の川 月も沈んで長い雨を恨む
山あい 花の潤んで暗い景色を いま再び眺める
(1) 詩格: 七言絶句仄起式平韻偏格
(2) 韻字: 中・風・蒙(上平聲一東)
(3) 平仄スキーマ:
●●○○●●○
○○●●●○○
○○●●●○●
●●○○○●○
(4) 備考: 拙作のツール「misima 漢詩作成支援 - 平仄音韻分析・詩語検索・漢字平仄検索」にて創作
藤田先生の漢文パッケージを用いて LaTeX でも組んでみた。旧漢字出力に OTF パッケージを,英数字には好みの書体である Garamond パッケージを使っている。組版結果画像と LaTeX 原稿とを掲げておく。
LaTeX 組版結果
% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*- % 七夕節・七言絶句 July 7, 2014. % 2014 (c) isao yasuda \documentclass[12pt,b5paper]{tarticle} \usepackage[T1]{fontenc}% \usepackage[deluxe,expert,multi,jis2004]{otf}% OTF 和文(齋藤氏) \usepackage{sfkanbun,furikana}% 漢文訓点・縦組振仮名パッケージ(藤田先生) \usepackage{plext}% pTeX 縦組拡張 \usepackage[osf,swashQ]{garamondx}% Garamond font \newcommand{\saku}[3]{\normalsize #1 #2, #3.}% \pagestyle{empty} \begin{document} ~\par \begin{kanshiyomi}{10zw}{20zw} \daisakushai{七夕\CID{13358}}{\hfill \saku{July}{7}{2014}} & \kana{七夕}{シチセキ}\CID{13358} \cr % 繾綣綢繆一褥中 繾綣(ケンケン) 綢繆(チウビウ)トシテ 一褥(ジョク)ノ中 % 香烟蔲蔲曉窗風 香烟ノ 蔲蔲(カカ) 曉窗(ゲウソウ)ノ風 % 天河月落恨霖雨 天河 月落チテ 霖雨(リンウ)ヲ恨ミ % 復眺山閒花濕蒙 復タ 山閒 花濕リテ 蒙(クラ)キヲ眺ム \UTFM{7e7e}綣綢\kundoku{繆}{}{トシテ}{}一\kundoku{褥}{}{ノ}{}中 & \Kana{\UTFM{7e7e},綣}{ケン,ケン} \kana{綢繆}{チウビウ}トシテ % 一\kana{褥}{ジョク}ノ中 \cr 香\kundoku{烟}{}{ノ}{}\UTFM{8532}\UTFM{8532}曉\kundoku{窗}{}{ノ}{}風 & \Kana{香,烟}{カウ,エン}ノ \Kana{\UTFM{8532},\UTFM{8532}}{カ,カ} % \kana{曉窗}{ゲウソウ}ノ風 \cr 天河\CID{13746}\kundoku{落}{}{チテ}{}\kundoku{恨}{}{ミ}{二}霖% \kundoku{雨}{}{ヲ}{一} & 天河 \CID{13746}落チテ \Kana{霖,雨}{リン,ウ}ヲ恨ミ \cr \kundoku{復}{}{タ}{}\kundoku{眺}{}{ム}{二}山\CID{08685}\CID{13666}% \kundoku{濕}{}{リテ}{}\kundoku{蒙}{}{キヲ}{一} & \kana{復}{マ}タ 山\CID{08685} \CID{13666}\kana{濕}{シメ}リテ % \kana{蒙}{クラ}キヲ眺ム \cr \end{kanshiyomi} \vspace{2zw} \begin{quote} 慕い纏わりつき ひとつ褥のなか\\ 気香ばしいショコラ 明け方の窓の風\\ 天の川 月も沈んで長い雨を恨む\\ 山あい 花の潤んで暗い景色を いま再び眺める \end{quote} \hfill\copyright\ \raisebox{0.3em}{2014, \textit{isao yasuda.}} \end{document}