sfkanbun.sty
pTeX 縦組・漢文訓読組版用のマクロスタイルに sfkanbun.sty がある。漢文の訓点,送り仮名を伝統的印刷マナーで組版することのできる素晴らしいパッケージである。LaTeX マクロ作成に関する著書で有名な藤田眞作先生によって作成された。先生の著書『pLaTeX2ε 入門・縦横文書術』においても,実装コード付きで解説されている。
misima 漢詩平仄音韻分析・詩語/漢字平仄検索を開発してから,これを活用して何篇か七言絶句を作った。今日はそのなかからひとつを,sfkanbun.
kanshiyomi 環境と \kundoku 命令
漢文パッケージでは,漢詩文を組むための便利な環境がいくつか実装されている。ここでは kanshiyomi 環境を用いて,訓点付き漢詩とその読み下し文とが対になった形式で組んだ。漢文訓読文のマークアップには \kundoku 命令を用いる。この命令の書式は次のとおり。
\kundoku{親字}{読み・平仮名}{送り仮名・片仮名}{返り点}<再読文字送り仮名>
最大 5 の引数を従えるのだが,再読文字送り仮名がなければ <> を省略でき,読み,送り仮名,返り点を少なくともひとつ指定する場合は,指定しない引数は {} とする。親字だけならそもそも \kundoku 命令でマークアップする必要はない。\kundoku{將}{}{ニ}{三}<ルガ> と書くと,「將」字の右下に「ニ」という送り仮名が,左横に「ルガ」という再読時の送り仮名が,左下に返り点「三」が,それぞれ小書きで出力される。
図 1. \kundoku 命令
今回組んでみた一篇の LaTeX 原稿とその組版結果を示す。漢文パッケージのほかに,やはり藤田先生作の振仮名パッケージ furikana.
% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*- % 七絶 2012.1--2014.2 \documentclass[12pt,b5paper]{tarticle} \usepackage[T1]{fontenc}% \usepackage[deluxe,expert,multi,jis2004]{otf}% OTF 和文(齋藤氏) \usepackage{sfkanbun,furikana}% 漢文訓点・縦組振仮名パッケージ(藤田先生) \usepackage{plext}% pTeX 縦組拡張 \let\onum=\oldstylenums% \newcommand{\saku}[3]{\normalsize #1 \onum{#2}, \onum{#3}}% \pagestyle{empty} \begin{document} \usefont{T1}{ugm}{m}{n}% Garamond ~\par \begin{kanshiyomi}{10zw}{20zw}% 漢詩+書き下し文環境 \daisakushai{三餘讀\CID{13955}代傳奇}% {\hfill 小\CID{14036}\CID{13746} \saku{Feb.}{14}{2014}} & \hskip1zw \Kana{三,餘}{サン,ヨ}ニ\CID{13955}代\Kana{傳,奇}{デン,キ}ヲ% \kana{讀}{ヨ}ム \cr \CID{13746}\kundoku{濡}{}{レ}{}雨\kundoku{霽}{}{レテ}{}% \kundoku{\CID{13709}}{}{ヘ}{二}三\kundoku{餘}{}{ヲ}{一} & \CID{13746}\kana{濡}{ヌ}レ 雨\kana{霽}{ハ}レテ \Kana{三,餘}{サン,ヨ}ヲ% \kana{\CID{13709}}{ムカ}へ \cr 夜\CID{13986}昏\kundoku{昏}{}{トシテ}{}\kundoku{對}{}{ス}{二}% \kundoku{故}{}{キ}{}\kundoku{書}{}{ニ}{一} & \Kana{夜,\CID{13986}}{ヤ,ハン} \Kana{昏,々}{コン,コン}トシテ % \kana{故}{フル}キ書ニ\kana{對}{タイ}ス \cr \kundoku{\UTFM{7ABB}}{}{ニ}{}\kundoku{\CID{13346}}{}{ル}{二}暈% \kundoku{洸}{}{トシテ}{}\kundoku{膚}{}{ノ}{}\kundoku{\CID{7844}}{}{ク}{}% \kundoku{\CID{13960}}{}{クヲ}{一} & \kana{\CID{14932}}{マド}ニ\kana{\CID{13346}}{ミ}ル \kana{暈洸}{ウンクワウ}% トシテ \kana{膚}{ハダ}ノ\kana{\CID{7844}}{シロ}ク% \kana{\CID{13960}}{ス}クヲ \cr 須\kundoku{臾}{}{ニシテ}{}\kundoku{轉}{}{ジテ}{レ}\kundoku{翳}{}{ニ}{}四% \kundoku{圍}{}{ハ}{}\kundoku{\CID{13336}}{}{シ}{} & \Kana{須,臾}{シユ,ユ}ニシテ \kana{翳}{カゲ}ニ\kana{轉}{テン}ジテ % \Kana{四,\CID{13528}}{シ,イ}ハ\kana{\CID{13336}}{ムナ}シ \cr \end{kanshiyomi} \vspace{2zw} \begin{quote} 濡れた月が出て 雨が上がり 三余の閑を迎える\\ 夜半うつらうつら 古えの書物を読む\\ ふと窓辺に 光の暈が茫と漂い 白い膚が透ける\\ たちまちそれは翳に転じて 私の周りには何もない \end{quote} \hfill\copyright\,\onum{2012}--\onum{2014}, \textit{isao yasuda.} \end{document}
図 2. sfkanbun.sty - kanshiyomi 環境による漢詩組版
misima RESTful Web Service による変換
LaTeX 原稿における漢文訓読文のマークアップは,複雑怪奇に見える。もっと構造が見渡せるようにすっきり書きたいものである。misima RESTful Web Service for GNU Emacs, LaTeX で述べた misimaRESTful.
\kundoku 命令は書式のとおり,親文字に続く引数が平仮名,片仮名と返り点で構成され,返り点を英数字で判断することができれば,親文字 - 平仮名 - 片仮名 - 英数字 - 片仮名 というシーケンスで記述することにより,機械的に \kundoku 命令に置き換えることができる。misima RESTful Web Service では LaTeX 変換 “-x a” オプションを指定しかつ 対象範囲に対し <misima_
今回の原稿の例で変換前後をそれぞれ図 3., 4. に示す。
図 3. <misima_kanbun> 変換前
図 4. <misima_kanbun> 変換後
参考文献
藤田先生の著書『pLaTeX2ε 入門・縦横文書術』は日本の伝統的印刷文化を再現するための縦組ノウハウが満載である。本当に残念なことに,絶版状態である。本書はそこいらに転がっている(日本人の手になる)コンピュータ関連駄本(古書で出てもすぐ二束三文に堕してしまう本)とは根本的に異なっている。まだアマゾンで古書が入手できるので,ぜひ手元に置いてほしいと思う。
漢文訓点の組版に限れば,藤田先生のサイトに解説『漢文の訓点文の組版』があるので参照されたい。