А. Тарковский - НОТЫ

20140111-tarkovskij.png

水泉動く小寒・次候。午下がりの書斎で,カミーユ・サン=サーンスの交響曲第 3 番ハ短調・オルガン付きを鳴らしながら,二十世紀ロシアの詩人・アルセーニイ・タルコフスキイの詩を少し読む。この詩人はかの有名な映画監督アンドレイ・タルコフスキイの父である。子に比べると世界的な知名度は落ちるが — また,日本ではほとんど知られていないが —,衷心の渋い詩でロシアではいまだに愛好家が多い。

『НОТЫ 音譜』という詩を日本語に訳してみた。誤訳も混じっているかも知れない。この詩のこころは「Живи и помни. И запиши. — 生き,そして記憶せよ。そして記録せよ」ということだと思う。人を思いやるとき,なによりもその人の抱く記憶を大切にしよう。その人のなした記録を理解しよう。なんという痛切な真実か。いまの日本人に決定的に欠けているものである。一方でこうも思う。歴史を「反省」するなんてバカバカしくてできやしないが,歴史を凝視せず「忘れる」人があまりに多くないか。

Арсений Тарковский    
 
アルセーニイ・タルコフスキイ  
 
НОТЫ
 
音譜
 
Казалось - жизнь проста, как правильный канон,
В пяти тонах живешь, играя,
Пока тебя еще не начинал Ганон
Швырять от края и до края.
 
生きることは簡単 規則正しいカノンのように
きみは 五つの音に息づき 遊ぶ
ハノンがきみを引摺り倒しはじめるまでは —
そんな風にみえた
 
Не хватит нáдолго мальчишеских сонат,
Все это чушь, горох стеклянный,
Жизнь говорит не так, сонаты прошумят,
Но не забудь «Сицилианы»*.
 
子供のようなソナタだけじゃだめだ
これはみなたわごと ガラスのピース
人生の声は ソナタの騒ぐようなものじゃない
でも バッハの「シチリアーノ」を忘れてはいけない
 
Как хороша сирень и память хороша!
По клавишам бежит досада;
Достаточно в росу бросаться не дыша,
В такое время нот не надо.
 
リラの花よし 思い出もよし
鍵盤をいまいましさが駆けてゆく
露に落ちて息をとめるに足るようだ
こういうときには 音譜は要らない
 
А ноты кто-нибудь под самый Новый год
По черной крышке разбросает.
И может быть, матрос к роялю подойдет,
По слуху «яблочко» сыграет.
 
新年のまさに前日 誰かが音譜を
黒い蓋のうえに撒き散らす
水夫がピアノに近づいて
暗譜で「りんごの唄」を弾きだすかも知れない
 
И скажет: «Может быть, все это где-то здесь,
Не то в конце, не то в начале,
Я мог бы вспомнить все, всю жизнь и праздник весь,
Когда б страниц не растеряли...»
 
そしてこう言う ー「これはみな ここみたいなどこかかも
終わりでもなく 始まりでもない
おれは すべてを 人生すべてを 祝い日のまる一日を
  思い出せたろうに
ページがなくなっちまわなかったのなら...」
 
(1935)
* Бах (Примеч. А. Тарковского.)
(1935年)
ハノン: Charles-Louis Hanon (1819-1900) 有名なピアノ教則本の著者 (訳注)
Арсений Тарковский  Стихотворения. Екатеринбург: У-Фактория, 2006, с. 48-49.

サン=サーンス作曲・交響曲第 3 番ハ短調作品 78「オルガン付き」。滔々と流れる弦楽のアダージョが美しい。オルガンという楽器は神の声である。ハ長調の和音ひとつで大オーケストラが黙り込む。まさに Divina Commedia。

私の好きな演奏はシャルル・デュトワがモントリオール交響楽団を指揮したもの。カップリングの交響詩『死の舞踏』,組曲『動物の謝肉祭』という選曲もよく,こちらも名演で,お買い得の CD である。

サン=サーンス:交響曲第3番<オルガン>/動物の謝肉祭、他
シャルル・デュトワ(Dir)
モントリオール交響楽団
ピーター・ハーフォード (Organ)
パスカル・ロジェ (Pf)
ユニバーサル ミュージック クラシック (2009-05-20)