ヴャチェスラフ・イヴァーノフの短歌

ロシア象徴派の詩人・ヴャチェスラフ・イヴァーノフ Вячеслав Иванов (1866-1949) の詩・叙事詩(1995年に「詩人文庫」から出た二巻本選集)を読んでいる。«Кормчие звёзды»(『導きの星』, 1903), «Cor ardens»(『熱き心』, 1911-1912), «Римские сонеты»(『ローマのソネット』, 1924)などの作品が有名である。象徴派というとフランス詩しか思い浮かべない日本の読書界では彼の名声はほとんど聞こえないが,ヨーロッパ(ただロシアに留まらず)では,ヴァレーリイ・ブリューソフ,アレクサンドル・ブローク,アンドレイ・ベールイと並んで,象徴主義のロシア的変異を語る上で避けては通れない大詩人の一人に数えられている。

イヴァーノフの作風は,古典古代の気品に溢れ,ギリシア,ローマ,ラテン中世の趣味が認められる一方で,マラルメ,ヴァレリー等の西欧象徴主義詩人と著しく異なる点として,ビザンティン文学の伝統をも体現している。そこにこそ彼のスラヴ的特徴があると思う。また新時代の詩人のもうひとつの特徴として,イヴァーノフもヨーロッパ世界の外にある詩とその形式への関心が高かった。作品集を眺めていて,«Подражание японскому»(『日本詩の模作』, 1935)と題した短歌(японское пятистишие: 五行詩)が収録されていたので,私の愚訳を付けて紹介したい。

Голых веток оснежен излом.
  Круглый месяц на дне
    Голубом.
Ворон на ветке во сне
Снег отряхает крылом.
Вячеслав Иванов - Стихотворения. Поэмы. Трагедия. Книга 2.
Новая библиотека поэта. СПб.: Академический проект, 1995, с. 101.
枯枝は捩じれ 雪に覆われ
  まどかなる月 空の底の
    蒼みに
枝の烏 夢見のごとく
翼にて雪をはらう

短歌本来の31音節ではなく32音節なのは,ロシア詩としてのリズムの要請によって来ていると推察される。9-6-3 と詩行ごとに 3 音節ずつ減じたあと 7-7 と同音節詩行を並列させ,5 行詩を安定終止させる音節構成。強弱格韻律。しかも,きびきびした男性韻(末尾アクセント音節での脚韻)できちんと韻を踏む(A-B-A-B-A)。見事である。一篇のロシア詩として独自の風格を備えている。

枯枝と烏のモチーフは芭蕉の有名な句「かれ朶に烏のとまりけり秋の暮」と強い近親性がある。『模作』の本歌は短歌ではなくこの芭蕉句かも知れないとまで想像してしまう。イヴァーノフにあっては,季節は冬に転じており,烏,枯枝,夜空の青黒いイメージに月,雪の白が対置されて気清かである。枯枝の「捩じれ」に日本的趣味が利いている。墨絵のような日本詩の造形を追究したものと思われる。「底」,「夢」のモチーフを裁ち入れることで,夢幻的深淵への悲劇的志向,象徴派に相応しい詩的精神が現れている。

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