昨日,昼食を取ったあと JT ビルの喫煙コーナーで一服していると,日本財団の電光掲示板に,共通番号法案が参院を通過して成立したとのニュースが流れた。この法案はプライバシー問題やセキュリティ・リスクを巡って反対意見も多かったわけだが,税制・社会保障制度の効率向上のために避けて通れぬということで今般の成立を見た。官庁系のシステムを担当する私の事業部はこれから忙しくなる — そうあってほしいものである。
夫婦共稼ぎをしていると,妻が仕事上の愚痴をこぼすのはよくあることである。女性の不満・愚痴には,ただ「うん,うん」と耳を傾けてあげるのが大事。でもときに,私の場合,つまらない説教をしてしまうことがある。これはよくない。できるだけ「こうしたほうがいいんじゃないか」くらいの意見に留めるべきである。
出版社に勤務する妻は,いつも仕事を依頼しているデザイナーからオンデマンド出版の見積り依頼(個人的付合いがあるので「相談」に近いのかも知れない)を受けた。印刷所から見積りを取ったところ意外に安価だったので,早く教えて上げたくなり印刷所からの見積りをそのままデザイナーに見せてしまい,社長から大目玉をくらった。昨日はそんな話だった。「おいおい,金に絡む話で責任者に無断で勝手に舞台裏を見せちゃ,社長が怒るのも無理ないよ。金の話は上役に押し付けなくちゃ。俺だって子分が同じことやらかしたら,テメー,コノヤローだよ」。う,いかん,また責めるようなことを言ってしまった...。
顧客から営業部門が見積り依頼を受けると,製造部門は関係する下請け会社に見積り展開する。受けとった各社の見積りに対し査定を行い,外注金額を確定させる。さらに自社作業を自ら見積もって上乗せする。さらに一般経費(ビル代やら,スタッフ部門の人件費やらを,決めた料率で一案件ごとに薄く乗せて回収するための金額)を上乗せする。さらに,当然ながら,経営判断による利益額を加算。税金も納めないといけないではないか。こうして成った見積りを会社として顧客に回答する権限・責任を担う部署(見積り回答内容の法的妥当性をチェックしたり,顧客信用調査をした上で,見積り回答の決済をなす。場合によっては見積り回答を辞退する旨の指示を出すことがある。顧客が反社会的勢力だったり,仕事そのものが当社のブランドを傷つける可能性を考慮する場合があるからだ)が見積り回答(すなわち,金額・仕様・納期)を最終的に確定し,決済し,会社の正印を押して,営業部門に見積り回答させる。— 通常の製造業企業は個別案件の見積り業務は概ねこのような流れで行っているはずである。
ここで自社作業,一般経費,利益を織り込まずして,外注金額をそのまま顧客に提示するなんて,仮に外注スルーの仕事が成り立つ場合であっても,ありえないし,やってはならない。外注に払う消費税は誰が負担するのか。納品物に当社の名前が付く以上,当社は責任を負わなければならない。その責任を負う覚悟で行う自社作業の金額を見積りに反映させないのは,自分の仕事を自分で否定しているのと変わりがない。そもそも,下請け会社の見積りは当社との間の秘密事項であり,他者にそれを提示するのは,下請け会社に対して秘密保持義務違反を犯している。見積り回答にはやり取りする双方の間での秘密事項である旨の記述が必ずある。A社には1000万で請け負い,B社には1200万で見積り回答した類似作業があったとき,その情報が漏れて,B社がA社より200万も高い金を支払わされた(もちろん正当な理由があるのだが)と知ったら,B社の当社に対する信頼は簡単に壊れてしまう。金額に差が出る理由は当社と顧客との機密に関ることなので,クレームを受けてもB社に説明できず,B社信頼回復は至難の技となる。
私はこの問題に直面したことがあり,A社様とB社様との個別事情の相違による差だといくら言っても,B社担当者から「説明責任がありますよね」と頑に責められて呆れたことがある。B社には値引きでカタを付け,当社は赤字になり,私の賞与は下げられたという始末。「クソ,誰が情報を漏らしたのか,A社のあの担当者か,うちのあの野郎か」— と,その後もくだらない勘繰りと不信感との負のスパイラルが続く。秘密を守れない,口の軽い人間を,最低の奴だと見下したくなる所以である。最近は LINE やら2ちゃんねるやらに匿名の暴露野郎が大いに蔓延って,下劣な世の中だと思わずにおれない。私はそういう軽口を業務中にネットに書き込む社員を見付けたら,なんだかんだ理由を付けてでも,あとで後ろから刺されるかも知れないと思っても,必ずクビにしてやると心に決めている。
かくして見積りは,きちんとルールに則って(そのルールに従えば,現場担当者は正式な見積り回答金額を知らないことになっている)遂行しないと,会社の信頼に関る面倒な問題になりかねないので,私は子分たちに口を酸っぱくして当社見積りルール遵守を徹底している。現場で見積り回答をする,なんて愚の骨頂である。
「お父さん,愚痴言わないよね。男の人って皆そうなの?」。男は愚痴を言うのではなく,食い物や何やらと同様,ストレスを下から排泄・放出して発散してます。あと,私は上記のとおりこのバカブログで存分に愚痴っております。もちろん,他人の秘密事項には充分に配慮しながら。
東大スラヴ語スラヴ文学研究室より年報『SLAVISTIKA XXVIII, 2012』を拝受。もう五年くらい前に論文を掲載して以来,発行される都度,私に送ってくれるんである。今回は,長谷見一雄教授退官記念号とある。収録された論文の一覧を眺め,ゴーゴリ,A. K. トルストイ,レーミゾフ,ベールィ,ブルガーコフ,ブロツキー,ロートマンと研究対象も幅広いのに感心。私の後輩がアンナ・マールというマイナー作家について論じていて面白かった。