ダリウス・ミヨーのオペラ『哀れな水夫』

milhaud cd

帰宅してダリウス・ミヨーを聴く。久しぶりのオペラ。ジャン・コクトー脚本による『Le pauvre matelot 哀れな水夫』(1926 年作曲,1927 年オペラ・コミック座にて初演)。Catherine Dubosc (水夫の妻), Christian Papis (水夫), Jean-François Gardeil (妻の友人), Jacque Bona (妻の父) の配役,Ensemble de Solistes de l'Opera の演奏。仏 cybelia 輸入盤。残念ながら現在,この盤は入手できないし,他の演奏による盤自体も見当たらない。マイナーな現代曲の盤は,面白い作品でも,すぐこうなってしまう。

ミヨーはユーモアのある明るい音調が新時代の音楽のなかでは個性的である。『哀れな水夫』は,しかしながら,運命の残酷な皮肉も傷ましい室内オペラである。十五年もの間行方不明になっていた水夫が帰郷するが,風貌がまったく変ってしまった彼は家族を驚かせようと別人(水夫の友人)を装って妻のもとを訪れ,「失踪したご主人は莫大な借金を抱えて行方を眩ましているがもうすぐ帰って来る」と彼女に告げる。いまだに夫を愛する妻は,人生を誤らせた借金から夫を救うため,この友人,つまりじつは夫その人をハンマーで撲殺し,その金を奪ってしまう。「落ち着いて,落ち着いてちょうだい。この人を運んでいかなくては,父さん。父さんは足を持って,私は首を持つわ。あの人を救うためなんだから」で幕。真実を登場人物が知らないまま終わるのがもの哀れなわけだが,屍体遺棄に際して「落ち着いて」と父を叱咤する妻の冷静さに,思わず身の毛がよだつ。フランスのフィルム・ノワールにもありそうな話である。

やっぱりオペラは,字幕付きの映像とともに観ないと,面白みが半減してしまう。それでも,この三幕のたった三十分の小さなオペラは,あらすじを頭に入れて聞くだけでも,室内楽の緊密な音響とテンポの速く途絶えることのない台詞のやりとりとで,ドラマティックな緊張感を漲らせている。この CD はミヨーの陽気な弦楽三重奏曲作品 274(1947 年)をも収録している。こちらは Trio Albert Roussel の演奏である。

私の所有するパリ・オペラ座ソリスト・アンサンブルによる盤は現在入手できない。ミヨー自身の指揮するフランス国立歌劇場管弦楽団による古い録音が手に入るようなのでリンクを設置しておく。

ミヨー:哀れな水夫
D. ミヨー (Dir)
フランス国立歌劇場管弦楽団
J. ブリュメール (S), B. ジロドー (T), et ali.
仏 VEGA (1958)