雛罌粟のころ

20130424-hinagesi.png

葭始めて生ず穀雨初候。今日,年休を取得して,お午,雨が間歇的に降るなか,妻と川崎駅周辺までお散歩。南武線沿いの歩道の並木の根元に,散る少し前と思しき雛罌粟の花が咲いていた。誰かが植えたのか,風に種子が運ばれて来て花咲いたのか,おそらく後者だろう。か細い頼りなげな茎に支えられた,鮮やかな紅緋の小さい花冠が,却って逞しく感じられ,いじらしい。

雛罌粟は虞美人草ともいう。と,昨日読んだ江戸艶笑潭をついつい思い出してしまう。「騅逝かず,騅逝かず,虞や,虞や,若(なんじ)を如何せん」— 項羽と虞美人の哀しい垓下歌も,江戸の艶笑潭では,「もういっちまったおいらのアレは元気がない,ごめんね,ごめんね」と夜の床でまだ満たされぬ女に詫びを入れる喜劇へと裏返される。『秘籍 江戸文学選』巻一『阿奈遠加之』(日輪閣,1976 年,36 頁)に,そんな笑い話が載っている。慈しびの虞美人草でこんな連想に走るおいらも終わってる。

川崎三十七番街を抜けたところにある坂内食堂で遅いお午。喜多方焼豚ラーメンと半炒飯,餃子を食す。店内には会津磐梯山や旧家の土蔵の写真がたくさん飾られている。会津にも行きたいな。いま放映中のNHK大河ドラマが幕末の会津を舞台としている話になる。NHK大河ドラマ,最近さっぱり人気がないみたいね。清盛の呪いらしいよ。お父さん,大河ドラマ観てたの? 『天と地と』から『勝海舟』くらいまでかな。

20130420-tsubakiya.png

そのあと,川崎駅ビル・アトレでお茶。大正風のレトロな喫茶店ができたというので覗いてみた。「椿屋茶房」という名のお店。いつもはドトールの安いコーヒーですませるのだが,今日は少し奮発。サイフォンで丁寧に入れたコーヒーはおっと驚くほど美味だった。おいしいコーヒーを飲むと感謝の気持ちが湧いて来る。「椿屋茶房」ではウェイトレスさんが旧き善き大正の女給スタイルで立ち働いていた。なかなか雰囲気も悪くない。ただ,開店間もないいま異常に混雑して騒々しいのが興を殺いでいた。ほどほどの客入り,ゆったりと静かな室内に,クライスラーかイザイの旧い盤のレコードなんかが掛かっている — そんなお店に行きたいものである。