D. スミルノフからメールでビデオをいただいた。For Orchestra。彼の三つのオーケストラ作品からの断片を集めた音楽ビデオである。Pastorale op. 15, First Symphony (The Seasons, W. Blake) op. 30 そして Mozart-Variations op. 47。演奏は,それぞれ,Bystrik Rezhucha 指揮 Bratislava Symphony Orchestra,Oliver Knussen 指揮 BBC Symphony Orchestra,Pavel Kogan 指揮 Moscow State Symphony Orchestra。いずれも強い印象を残す素晴らしい作品である。
D. スミルノフは 1948 年ミンスク(現在はベラルーシ)生まれ,モスクワ音楽院で巨匠エディソン・デニソフに学び,その無調性の前衛的作風ゆえに,1970 年代末から 1980 年代のソヴィエト音楽界にあって,「フレンニコフの七人」の一人として,体制側から強い非難を浴びた。1990 年のソ連崩壊後,亡命も同然で英国に移住し(ロシアは大きな政治的転換のあと藝術家が新体制によって粛正された歴史があるので,たとえソ連が崩壊して CIS になったからといって,藝術家にとって安全ではなかった),現在に至っている。彼の音楽にとってウィリアム・ブレイクと芭蕉の詩は特別な意味をもっている。
このビデオをエンベッドしておく。聴いてわかるとおり,西欧の現代音楽とは一線を画した,静かに物思う風情のある凛とした音響こそが,彼の音楽の特徴である。このビデオ以外にも YouTube Dmitri Smirnov チャンネルから彼の作品を聴くことが出来る。
Symphony No. 1 "The Seasons" by W. Blake, op. 30 (1980) と Mozart-Variations op. 47 (1987) については,10 年近く前に芭蕉俳句に基づく曲作りでテクスト校訂のお手伝いを少しばかりした関係でスミルノフからいただいた CD で,よく知っていた。ウィリアム・ブレイク詩『四季』にインスパイアされた彼の作品は,ほかにも The Seasons, for soprano, flute, viola and harp, op. 28 (1979) という室内歌曲があり,これも素晴らしい。これは 1986 年のベルリン芸術週間・ロシア現代音楽特集『モスクワの今日』において,ジャニス・ハーパーのソプラノ,ペーター・エートヴェシュの指揮,アンサンブル・モデルンという超豪華な演奏者によって演奏され,私はそれを NHK-FM で耳にして以来,スミルノフのファンになってしまったのである。