電車に揺られながら永井荷風の『断腸亭日乗』を読みつつ,荷風五十の心境を思い,漢詩を捻る。帰宅したあと,自作ツールで文字を捏ねくり回し,なんとか七絶の形にした。書き下し,現代語訳とともにお見せします。が,荷風一流の季節感に欠け,おまけに起承と転結の間に深い溝がある。杜撰。ま,点景だけにこだわりました。平仄は合っているはずである。例によって,自作ツール「misima 漢詩: 平仄音韻分析・詩語検索・漢字平仄検索」を活用。
寄荷風散人日乘 — 荷風散人ノ日乘ニ寄ス。功散人,Feb. 22, 2013
晏眠午睡夕陰醒晏眠 ,午睡 シ夕陰 ニ醒 ム
迷惓白箋櫻樹暝白箋 ニ迷ヒ惓 ミ 櫻樹ハ暝 シ
四顧曠茫塡海地四顧曠茫 タリ塡海 ノ地
喘溝渠徑矚紅燈溝渠 ノ徑 ニ喘 ギ紅燈 ヲ矚 ル
遅く起床し また午睡を貪り 夕方になって覚醒する日々
真っ白な原稿用紙を前に 迷い 倦み 暗い庭の桜樹に目をやる
濹東海浜の埋立地は 四方果てしなく 荒涼としていた
溝渠沿道で息を切らす 妓楼の燈火を遠くに眺めた
(1) 詩格: 七言絶句平起式平韻正格
(2) 韻字: 醒・暝・燈(下平聲九青)
(3) 平仄スキーマ:
●○●●●○○
○●●○○●○
●●●○○●●
●○○●●○○
「歸途新大橋を渡り電車にて小名木川に至り,砂町埋立地を步む,四顧曠茫たり,中川の岸まで步まむとせしが,城東電車線路を踰る頃日は早く暮れ,埋立地は行けども猶盡きず,道行く人の影も絶えたり,[ ... ] 遠く曠野のはづれに洲崎遊郭とおぼしき燈火を目あてに,溝渠に沿ひたる道を辿り,漸くにして市内電車の線路に出でたり」(『斷腸亭日乘』昭和六年十一月廿七日,『荷風全集』巻二十一,岩波書店,昭和 47 年,53 頁)。
今夕,出張先の桜木町からの帰途,横須賀線の車窓から川崎陋巷方面の街灯りを遠望していると,ふと,『日乗』のこの記述は荷風の心象風景だったのではないかと思い至った。四顧曠茫。沈滞した時代にあって,荷風の眼には,周りの存在は何もかも曠野に等しく映じ,一方で衰えを感じはじめた身は,尚も妓楼の燈火に惹かれ行くばかり,ということではないか。
漢詩を LaTeX で組んでみた。画像と原稿を示す。
% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*- % 狂溟集 - 寄荷風散人日乘 % 2013 (c) isao yasuda, All Rights Reserved. % $Id: shichizetsu.tex 11 2013-02-21 13:22:55Z isao $ \documentclass[12pt,b5paper]{tarticle} \usepackage[T2A,T1]{fontenc}% \usepackage[russian,japanese]{babel} \usepackage[deluxe,expert,multi,jis2004]{otf}% OTF 和文(齋藤氏) \usepackage{sfkanbun,furikana}% 漢文訓点・縦組振仮名パッケージ(藤田先生) \usepackage{plext}% pTeX 縦組拡張 \usepackage[osf,swashQ]{garamondx}% Garamond font \newcommand{\saku}[3]{\normalsize #1 #2, #3.}% \newcommand{\cpright}{% \hfill\copyright\ \raisebox{0.308em}{2012--2015, \textit{isao yasuda.}}}% \pagestyle{empty} \begin{document} ~\par \begin{kanshiyomi}{10zw}{20zw} \daisakushai{寄荷風散人日乘}% {\hfill\saku{Feb.}{22}{2013}} & \hskip1zw \Kana{荷,風}{カ,フウ}\Kana{散,人}{サン,ジン}ノ\kana{日乘}{ニチジヨウ}ニ% \kana{寄}{ヨ}ス \cr % 晏眠午睡夕\kundoku{陰}{}{ニ}{}\kundoku{醒}{}{ム}{} & \Kana{晏,眠}{アン,ミン} \Kana{午,睡}{ゴ,スイ} \Kana{夕,陰}{セキ,イン}ニ% \kana{醒}{サ}ム \cr \kundoku{\CID{14054}}{}{ヒ}{\ongofuni}\kundoku{惓}{}{ミ}{}白% \kundoku{箋}{}{ニ}{一}\CID{13481}\kundoku{樹}{}{ハ}{}\kundoku{暝}{}{シ}{} & \Kana{白,箋}{ハク,セン}ニ\kana{\CID{14054}}{マヨ}ヒ\kana{惓}{ウ}ミ % \Kana{櫻,樹}{アウ,ジユ}ハ\kana{暝}{クラ}シ \cr 四\CID{13759}曠\kundoku{茫}{}{タリ}{}\CID{7751}\kundoku{\CID{13327}}{}{ノ}{}地 & \Kana{四,\CID{13759}}{シ,コ}\hskip.5zw\kana{曠茫}{クワウバウ}タリ % \Kana{\CID{7751},\CID{13327}}{テン,カイ}ノ地 \cr \kundoku{喘}{}{ギ}{二}\CID{7681}\kundoku{渠}{}{ノ}{}\kundoku{徑}{}{ニ}{一}% \kundoku{矚}{}{ル}{二}紅\kundoku{燈}{}{ヲ}{一} & \Kana{\CID{7681},渠}{コウ,キヨ}ノ\kana{徑}{ケイ}ニ\kana{喘}{アヘ}ギ % \Kana{紅,燈}{コウ,トウ}ヲ\kana{矚}{ミ}ル \cr \end{kanshiyomi} \vspace{2zw} \begin{quote} 遅く起床し また午睡を貪り 夕方になって覚醒する日々\\ 真っ白な原稿用紙を前に 迷い 倦み 暗い庭の桜樹に目をやる\\ \CID{15395}東海浜の埋立地は 四方果てしなく 荒涼としていた\\ 溝渠沿道で息を切らす 妓楼の燈火を遠くに眺めた \end{quote} \cpright \end{document}
安倍首相訪米。日米同盟を揺るぎないものとするためという。いくら日本がラブコールを送っても相手は別の方向を向いているのではなかろうか。どうやらそのお相手は中国のほうがお好きのようだから。だっていまや米国の経済的国益にとって日本はどうでもよい国になってしまったから。なのに,何の「お土産」も持たずに,「私たちの愛をより深めてよ」とお願いしに,まだ好かれていると思い込んでいる飽きられ情婦よろしく,米国を訪問するバカ宰相。この人,外交のギブ・アンド・テイクということを知らぬらしい。
この訪米,安全保障についての「お土産」(例えば,普天間問題の解決方針など)がない以上,日米同盟については「何々で一致」くらいの軽い話題で終わり,安倍さんは TPP のテーブルに付くことを約束させられて帰って来る「だけ」のように思われる。日米同盟強化のために約束しちゃったから,てなもんや。
そうか,TPP が「お土産」だったのだ。アベノミクスで経済がちょっと「元気そうに見えている」いまがチャンス。そう,いつものとおり既成事実にすればよいのだ。対外的事案では,日本はこれまで,議論を尽くした上で決断するのではなく,「常に」既成事実に流されて来た。TPP もそうなるに違いない。