本日のお伴はブクステフーデのカンタータ『われらがイエスの四肢』。Dietrich Buxtehude - Membra Jesu nostri, Bach Collegium Japan directed by Masaaki Suzuki, 1998, BIS (Sweden) — 鈴木雅明の指揮,バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏,声楽ソリストは緋田芳江(ソプラノ),鈴木美登里(ソプラノ),米良美一(アルト),穴澤ゆう子(アルト),櫻田亮(テノール),小笠原美敬(バス)。イエスの四肢それぞれに対応した7つの部:Ad pedes(足について),Ad genua(膝について),Ad manus(手について),Ad latus(脇腹について),Ad pectus(胸について),Ad cor(心について),Ad faciem(顔について)から成る。1997 年の録音,スウェーデン BIS 輸入盤。
ブクステフーデといえばバッハ・オルガン音楽の先達というイメージしか私にはなかった。しかし,1999 年,バッハとの関係に限定された彼に対する音楽史的見方など,吹き飛んでしまった。西暦 2000 年対応に心も体も疲れ果てていたある日,たまたま横浜西口の HMV に立ち寄って,試聴コーナーにあったこの CD を聴いて,魂が揺さぶられるような,電撃的な何かに打たれるような感動を覚えたのである。立ったまま全曲試聴し,幸せな気分で一枚を手にしてレジに向ったのをよく覚えている。こんなマイナーな(と思われる)古楽宗教曲を試聴用 CD チェンジャーに据え付けてくれた HMV の目利きの店員に,心のなかで感謝した。これだからレコード店に足を運ぶのを止められないのである。
そしてこれを演奏しているのが,なんと日本人演奏家だということにも驚愕したのである。鈴木雅明,バッハ・コレギウム・ジャパンの名をはじめて知ったのだった。古楽,しかも宗教曲というジャンルにおいて,ここまで端正,優雅,深遠,そして何より「感動的」な演奏を日本の「音楽集団」が披露してくれる,という事実に仰天したのである。バロックヴァイオリンなど古楽器のアーティキュレーションと艶やかな音色,清く暖かいアンサンブル,瑞々しい声楽パート(とくに緋田芳江,鈴木美登里のソプラノ)などなど。こりゃ,あのレオンハルト合奏団,コレギウム・アウレウム,ウィーン・コンツェントゥス・ムジークス,イングリッシュ・バロック・ソロイスツよりもスゲぇ,で,こいつらメイド・イン・ジャパンってか? 近い将来,日本はヨーロッパ古楽演奏の大きな一角になるに違いないと思われ,ホント,ワクワクしたものである。これこそホンモノ。もはやお勉強・「なりきり」体質は微塵もない。日本の音楽文化は古楽演奏においてもアジアの他の国々を「圧倒的に」リードしている,そういう嬉しさがこみ上げて来たものである。その後,鈴木雅明,バッハ・コレギウム・ジャパンは当然ながら有名になり,私もミューザ川崎シンフォニー・ホールでのバッハ・マタイ受難曲全曲演奏会とブランデンブルク協奏曲全曲演奏会で,彼らの素晴らしいパフォーマンスに実際に触れることができた。
彼らのバッハを中心とするディスコグラフィーは,もっぱらスウェーデンの BIS レーベルから出ている。ブクステフーデ『われらがイエスの四肢』とともに,もうひとつだけ,これも素晴らしい録音であるバッハ『マタイ受難曲』のアマゾン・リンクを設置しておく。
Bach Collegium Japan
BIS (1998-06-23)
Bach Collegium Japan
BIS (2000-01-18)