「“日の丸家電”苦境…パナ・シャープが巨額赤字」。ソニーも同じ。時間の問題だと思っていたが,とうとうそういう時代になったということだ。
松下電器,シャープ,サンヨーは関西の電気機器メーカーの雄だった。私が会社に入ったころ,三菱,東芝,日立などの「重厚長大」の総合電機メーカーは,家電以外にも,発電設備,電気機関車,自動車用電気系統,ビジネス・科学技術向け大型コンピュータ,制御装置,医療用機器,半導体などなど,大型電機・基礎部品を製作し,それゆえ大赤字が続き(この理屈がわからない人が極めて多いのだが),それを家電製品の黒字で穴埋めするという時代だった。その後コンピュータ,半導体の事業黒字が赤字を補填するようになる。そうしてようやく収支はトントン。1パーセント以下の利益率。それに対し,こういう時代を通して,関西の雄・三社は日本製の高品質家電で常に大きな黒字を確保し,ボーナスは電機労連のなかでも常にトップクラスだった(電機労連に所属しないソニー社員のボーナスはさらにスゴかった)。ペーペーだったころの私は,同じ電機労連で何故こんなに給料が違うのか,何でウチはこうも低いのか,と半ば呆れていた。
私は,自分の会社が原子力発電や鉄鋼圧延機などの事業において大赤字を出すのをみながら,どうして絶好調のコンピュータや家電に資本を集中投下しないのか,といつも不満であった。ウチの会社は何でこんなに頭堅ぇんだ! ところがいまになって,総合電機メーカーの「総合」たる所以,その頭の堅さのありがたみが身にしみてわかる。松下電器,シャープ,サンヨー,ソニーはコンシューマにほぼ特化した事業で稼ぎまくって来たわけだが,このところの円高,中国・韓国企業の成長によって,かつてのメイド・イン・ジャパン品質の価値が下落し,彼らの国際競争力はもはや風前の灯火である。一方,インフラ整備ができる三菱,東芝,日立などの総合電機メーカーは,かつては赤字の源だったインフラ整備技術力によって,中国,東南アジア,南米といった新興国の国際的需要を獲得し,利益をあげるようになった。
松下電器,いまのパナソニックの生みの親・松下幸之助は,「三年やって儲からない事業からは直ちに撤退する」という,業界では有名なポリシーをもっていた。でもって,技術開発に恐ろしく金と時間を要する電子計算機や重電に投資しなかった。事業の神様も,家電で日本が潤っていた時代だからこそ。金儲けが巧かった関西の三社の未来はどうなるのか。私は関東の頭の堅いメーカーにいてよかったと思う今日このごろである。