ゆうべ,C 大学法学部の指定校推薦枠に入った娘のお祝いをした。息子に続き娘も大学進学が決り,親としても一段落。JR 鹿島田駅前の居酒屋で焼鳥,茶漬けなどを食った。中学時代の娘の友だちが偶々アルバイトで働いていて,娘は挨拶を交わしていた。学校の制服のままの娘は見るからにガキなのだが,お仕着せを着けた友人は大人びて美しく見えた。「こんな時間に未成年が?」とも思ったのだけれども,目的はともあれ,働いて稼ぐ姿勢は感心せざるべからず。
早めに仕事を上がった。今日,金曜日午前,開発工程の遅れについてプログラム開発担当部署との不愉快極まりない会議で,気分は最悪。「テメェ,お客にどう説明すりゃいいんだよ!」— でもって鬱な私は,仕事が一区切りした午後,事務所のある霞ヶ関から地元・川崎に向った。この炎天下に,身をじりじり焼いて,悪意を汗とともに流し去ってしまいたくなり,旧東海道に沿って散歩することにしたのである。まずは頭を冷やすこと!
寝不足と会議の怒りとこのクソ暑さでムカムカしていた。カンカン娘,否,カンカン照りのなか,川崎駅から大きく迂回するように府中街道まで出てそれを川崎競馬場方面に進み,本町交差点から狭い旧東海道に入った。堀之内から南町まで,と決めた。ここは川崎の柳巷。江戸の宿場だった場所柄であろうか。たった二区画を挟んで一大ソープランド街が二つもある。この空気に冒されたからか,読みさしのピエール・ルイスのエロティックな小説,ギリシア的清澄と東方的暗黒の筆致で古代アレクサンドリアの美しい娼婦を描いた『アフロディテ』について思いを巡らせながら歩くうちに,炎天下,淫らな妄想をしてしまった。その幻影によって漢詩を捻りつつ,南町から市電通り(国道 140 号線)に入り,そのまま自宅まで 6 キロを歩いた。帰宅してから,とりあえず七絶の形にした。
川崎柳巷 ノ游子 幻影 — P. Louÿs Aphrodite ニ寄ス Sept. 14, 2012.
往舊大街焚灼風舊大街 ヲ往 ク焚灼 タル風
燋希臘幻玉玲瓏希臘 ノ幻ヲ燋 ガス玉 玲瓏 タリ
嫦齎蘭橤無莖葉嫦 ,蘭橤 ヲ齎 ス莖葉 無ク
變輛一輪還碧空輛 ノ一輪ニ變 ジテ碧空 ニ還 ル
旧街道をわたり往く熱風
古代ギリシヤの幻 玲瓏たる玉飾りを焦がす
月のような美女がくれた胡蝶蘭一花 茎も葉もない花蕊
ふと二輪車の片輪に変容したかと思うと 紺碧の空に還って行く
(1) 詩格: 七言絶句仄起式平韻偏格
(2) 韻字: 風・瓏・空
(3) 韻目: 上平聲一東
(4) 平仄スキーマ:
●●●○○●○
○○●●●○○
○○○●○○●
●●●○○●○
(5) 自作プログラム misima 漢詩作成支援 - 平仄音韻分析・詩語検索・漢字平仄検索にて創作
上の漢詩を LaTeX でも組んでみた。
% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*- % 七絶 2012.1--2014.2 % $Id: shichizetsu.tex 11 2012-09-14 09:00:55Z isao $ \documentclass[12pt,b5paper]{tarticle} \usepackage[T2A,T1]{fontenc}% \usepackage[russian,japanese]{babel} \usepackage[deluxe,expert,multi,jis2004]{otf}% OTF 和文(齋藤氏) \usepackage{sfkanbun,furikana}% 漢文訓点・縦組振仮名パッケージ(藤田先生) \usepackage{plext}% pTeX 縦組拡張 \usepackage[osf,swashQ]{garamondx}% Garamond font \newcommand{\saku}[3]{\normalsize #1 #2, #3.}% \newcommand{\cpright}{% \hfill\copyright\ \raisebox{0.308em}{2012--2014, \textit{isao yasuda.}}}% \pagestyle{empty} \begin{document} ~\par \begin{kanshiyomi}{10zw}{20zw} \daisakushai{川崎\kana{柳\CID{7679}}{リウカフ}ノ\Kana{游,子}{イウ,シ}% \kana{幻影}{ゲンエイ}}% {\hfill\saku{Sept.}{14}{2012}} & \hskip1zw P.\,Lou\"ys \textit{Aphrodite}ニ寄ス\cr % \kundoku{\CID{13661}}{}{ク}{二}舊大\kundoku{街}{}{ヲ}{一}焚% \kundoku{\CID{7696}}{}{タル}{}風 & \kana{舊}{キウ}\kana{大街}{タイガイ}ヲ\kana{\CID{13661}}{ユ}ク % \kana{焚\CID{7696}}{フンシヤク}タル風 \cr \kundoku{\CID{14767}}{}{ガス}{二}希\kundoku{臘}{}{ノ}{}% \kundoku{幻}{}{ヲ}{一}玉玲\kundoku{瓏}{}{タリ}{} & \kana{希臘}{ギリシヤ}ノ\kana{幻}{マボロシ}ヲ\kana{\CID{14767}}{コ}ガス % \kana{玉}{ギヨク}\hskip.5zw\Kana{玲,瓏}{レイ,ロウ}タリ \cr 嫦\kundoku{\UTFM{9F4E}}{}{ス}{二}\CID{14084}\kundoku{\CID{17862}}{}{ヲ}{一}% \kundoku{無}{}{ク}{二}莖\kundoku{葉}{}{}{一} & \kana{嫦}{ヂヤウ},\Kana{\CID{14084},\CID{17862}}{ラン,ズイ}ヲ% \kana{\UTFM{9F4E}}{モタラ}ス \kana{莖葉}{ケイエフ}無ク \cr \kundoku{變}{}{ジテ}{二}\kundoku{輛}{}{ノ}{}一\kundoku{輪}{}{ニ}{一}% \kundoku{\CID{13692}}{}{ル}{二}碧\kundoku{\CID{13735}}{}{ニ}{一} & \kana{輛}{リヤウ}ノ\kana{一輪}{イチリン}ニ\kana{變}{ヘン}ジテ % \kana{碧\CID{13735}}{ヘキクウ}ニ\kana{\CID{13692}}{カヘ}ル \cr \end{kanshiyomi} & \vspace{2zw} \begin{quote} 旧街道をわたり往く熱風\\ 古代ギリシヤの幻 玲瓏たる玉飾りを焦がす\\ 月のような美女がくれた胡蝶蘭一花 茎も葉もない花蕊\\ ふと二輪車の片輪に変容したかと思うと 紺碧の空に還って行く \end{quote} \cpright \end{document}