今年も新人配属の季節が近づいて来た。配属新人はまだコンピュータ導入教育中で,実際の配属は8月なんだけど,彼らのプロフィールが管理職にはメールで事前に送られて来た。
今年度新人配属数は例年並み。ウチの部には5名 — 修士出3名,学卒1名,高卒1名。理科系の会社なので理学部,工学部の学生が多いは当然なのだが,修士あがりばかりである。西暦 2000 年ごろから政府が大学院重点政策を展開してこのかた,この傾向が続いている。どうせ専門と直接関わりのない仕事に就くのだとしたら,大学院に行くのが当たり前の風潮はどれだけ意味があるんだろうか。さっさと社会に出して仕事に慣らしたほうが国策としてよいような気がする。
というのも,高卒社員の仕事のレベルが高く,高卒7年目と修士出1年目の仕事の質の格差は,その給与の差(ほとんどないのが実情)よりも桁違いに激しいからである。このおかげで,修士1年目は恐ろしいプレッシャーとともに高卒の — 同い歳の — 先輩と仕事をしなければならず,それゆえにインテンシブに仕事の技倆を磨かなければならない。しかし,メーカーというのはこれが伝統的なのである。また,不条理のようだが,そもそも世の中は全体的にこのようにできている。仕事のできる高卒よりも,大学で遊んでばかりいた学卒のほうが給料が高いものである。日本という国はそのようにできている。ただそれだけである。
今年3月末,労働者派遣法改正案が参院で可決された。この法案は当初は昨年に公布される見込みだったが,あの何もできなかった菅総理の辞める辞めないのドタバタのおかげで,先送りになっていたのだった。それに比べると,野田政権の法案可決のスピードの早さよ。ちょっとやばくないかというような法改正も,消費税絡みの政権と自民・公明との馴れ合いで,スパスパ可決されている。連立もせず,参院でネジレているのに,何とも凄い政権である。自・公はホント猿回し。
ところが,可決された労働者派遣法改正案は,製造業派遣/登録型派遣,並びに日雇派遣 — 法案の背景にあった派遣労働者の劣悪な条件のうち,もっとも社会的に問題視された点 — の禁止条項を,削除ないし大幅に緩和したものだった。製造業の派遣制約を厳しくすることは企業活動に大きなブレーキになる可能性があり,財界,野党・自民党の要請が聞き入れられた形になったわけだ。ところが,グループ企業内派遣を8割以下(総労働時間ベース)に規制するという — 私の仕事に関わりが大きい点でいちばん気になっていた — ものだけが当初検討の条文のまま残った。大いに笑わせてくれた。
グループ企業内派遣というのは,特定企業に対してのみスタッフを派遣する形態である。これを規制する背景には,特定部署を別会社化して派遣として受入れる風潮が大企業で普通になった結果,労働者の労働条件が実質的に切り下げられているのではないか,という問題があった。これは,例えば,われわれのような業務アプリケーション開発作業とハードウェアとをシステム品としてセットで納めるメーカーでは一般的である。銀行などもシステム開発の専門子会社を抱えているのが普通である。開発作業のほとんどをこうした別会社に外注し,SE作業も派遣や請負に頼らないと,作業量に波のある開発作業は不可能なのである。その要員はすべて関連企業からほぼ「固定的に」調達しているのが実情である。そして,関連会社は親会社=特定のグループ企業(連結決算対象企業)にほぼライン作業者全員を派遣しており,8割以内に制限するという数字を守れないところがほとんである。
労働者派遣法は今年の12月に施行される。経過措置があるので,実質的には来年の4月から本格運用に入る。ITゼネコンといわれる企業とその関連会社は目下,戦々恐々としてその対策にいそしんでいるはずである。派遣契約をやめて請負契約にするのがいちばん安易なのだが,発注元のわれわれが派遣者に直接,指揮・命令を下すことのできる派遣契約に対し,請負契約の場合は,成果物目的のいわゆる丸投げがその形態の本性なので,技術者を手元に置いて人間臭いシステム開発を進めるにはかなり面倒な事態に陥る。なにしろ請負契約では,こちらの状況判断で仕事のあれこれを請負契約者に指図することができないのである。この法案に対する主たる対策主体は関連会社側ではあるけれども,いままでのように派遣技術者の質と量を期待できなくなるのは言うまでもない。