Facebook でロシアの友人から,ユーリイ・ロートマン Юрий Михайлович Лотман (1922-1993) の講義ビデオを教えてもらった。Ю. Лотман - Беседы о русской культуре. Искусство - это мы(邦題『ユーリイ・ロートマン,ロシア文化を語る - 藝術とは我々自身だ』)。ほかにもいくつか YouTube にアップされているようである。ここでもエンベッドしておきたくなった。インターネット時代になり,YouTube で彼の生前の講義記録に触れられるようになった。ありがたいことである。いまの学生さんが本当に羨ましい。
ユーリイ・ロートマンの名は — ミハイル・バフチンの名と並んで — ロシア文学史・文藝学を少しでも勉強したことのある人なら知っていると思う。私は学生時代にプーシキン研究文献を漁る過程で彼の著書に触れ,ヨーロッパの学術研究の偉大さを知るとともに,彼の研究の基本的立場に多大な影響を受けた。彼は,ロシア本国のみならず欧米の知識人の間でも,構造主義的文学・藝術研究の第一人者として名を残している。1993 年に亡くなったとき欧米では大いに騒がれた(文化的アンテナの著しく低い日本では,当然ながら,まったく話題にならなかった。ましてや,戦前からの不幸なプロパガンダのおかげでソヴィエト/ロシアというと「共産主義」しか頭に浮かばない単細胞ぶりだった/であるから,当然である)。ロシアの文藝学者の大きな特徴は,文献学・文学史の実証的領域で一流の仕事をした,テクニカルなプロフェショナルであるということ。そこがロラン・バルトなどフランスの構造主義「思想家」との大きな違いである。
ロートマンのロシア語はゆったりとして,一語一語が明晰で,私のようなロシア語放置歴うん十年の元・文学研究学徒/現・ただのサラリーマンでも,何を言っているのかがだいたいわかる。こういうビデオが残っているところ,彼がいかに教育にも熱心だったかがわかるのである。ソヴィエト時代にはブルジョア的退廃藝術として貶められていたグスタフ・クリムトの作品を例に藝術における「生」のヴィジョンを語るところ,私なんかは「あ,ソヴィエト時代は終わったんだ」というヘンな感慨を覚えてしまう。
posted by yankoslava