靖國・千鳥ヶ淵観桜散歩

東京・横浜も桜が満開になった。あまり天気がすぐれず薄ら寒い日だったが,妻と靖國神社・千鳥ヶ淵まで桜を観に行った。昨年は震災のため観桜の余裕はなかったのが思い出された。

九段坂は地下鉄東西線駅舎内からすでに人で溢れ返っていた。靖国通りを跨ぐ歩道橋の人の列がまったく動く気配がないので,先に靖國神社にお詣りすることにした。当然ながらこちらも花見客で混雑していた。大村益次郎銅像のあたりで軍歌の合唱会のようなイベントがあり,ただでさえ混雑しているのに参道がイベント客で埋め尽くされ,通り抜けるのに大いに苦労した。軍服を着たコスプレ老人たちには,吐気がした。遊就館では,開戦 70 周年記念の展示会が催されていた。

拝殿で参拝を済ませ,しばらく花を眺め気を浴びた。神門を潜ってすぐ,能楽堂の前に広がる靖國の桜は,実に見事である。ここが東京の桜の開花指標になっている(ハズである)のも頷ける。

yasukuni sakura

石鳥居から社を出ると,私が入社したときに事業部本部であったビルがみえた。この季節,新入りのころは勤務時間中から花見の場所取りをさせられたなぁという記憶しか甦って来なかった。千鳥ヶ淵に向かう歩道は遅々として進まなかった。インド大使館が桜まつりで賑わっていた。大使館は皇居に近いほど格が高い。半蔵門にある英国大使館はその意味で最高待遇なのである。インド大使館もよい場所にある。

千鳥ヶ淵はおそらくわが国でも有数の観桜名所である。大阪の造幣局,奈良の吉野も素晴らしいが,皇居に接し濠の水を取り巻いて降り注ぐ桜の景観は,私にとって別格である。この季節は夜間もライトアップ演出がなされる。それも拝みたくなった。松井冬子の夜桜の大作(千鳥ヶ淵の桜を描いた『この疾患を治癒させるために破壊する』— 先月,横浜美術館でこの目でみて圧倒された)を想像した。

chidorigafuchi

桜を観たあとは,靖国通りを神保町まで歩いた。神保町では千代田さくらまつりに合わせて「さくらブックフェア」が開催されていて,歩道に古書店による露店が出ていた。それらを眺め歩きながら,古典文庫『秋成狂歌集』(丸山季夫編,昭和 47 年刊。古典文庫は会員制の出版社で,日本の古典の印影と校訂テクストを会員のみに提供する珍しいシステムをとっていた),会田雄次『日本人の意識構造』(講談社現代新書,昭和 47 年刊)など,叩き売りの文庫,新書を 4 冊,Orpheus Chamber Orchestra 演奏によるブリテンの Simple Symphony op. 4 の独 Grammophon 盤 CD 1 枚,そして文庫ブックカバーを購入した。このブックカバーは,古書りぶる・りべろオリジナルのようで,緑青(ろくしょう),浅黄(あさき),退紅(あらぞめ)の和の色を組み合わせた絹地に,中務の歌「さくらばなちりかふそらはくれにけりふしみのさとにやどやからまし」が書かれている。西行の筆によるとの言い伝えがあるとお店の人が教えてくれた。

Jimbocho, bookcover

神保町に来ると必ず立ち寄る喫茶店で,苦いマンデリンをいただいた。こんな旨い珈琲を飲んだのはいつ以来か。帰り,妻と近所でラーメンを食った。

帰宅したら,阪神 VS 巨人戦 9 回大詰めの模様がテレビ中継されていた。1-0 でタイガースの勝利。よっしゃー! 巨人はまたもや完封負け。ジャイアンツ相手だと各チームがエース級を当てて来るのは当然なんだけど,ここまで調子が上がらないのはみていて可哀想になる。それにしても,杉内投手を補強して今年の巨人はひと味違うだろうと思っていたが,杉内が期待通り素晴らしい投球をしながら 1-0 で敗れるのは皮肉である。ま,あれだけの強力打線を擁しているんだから,そのうち上がって来るとは思う。

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Benjamin Britten の Simple Symphony は彼の若書きだけど,弦楽オーケストラによる文字通り若々しくシンプルな旋律と音響で,何とも懐かしい気分にさせてくれる。私の勝手な感想。

Bizet: Symphonie No. 1
Orpheus Chamber Orchestra
Polygram Records (1990-10-25)

会田雄次は己の戦争・捕囚体験から日本人の精神構造を真剣に探求した作家である。本書はその代表的論考。私はこの本を,高校一年のとき国語の先生から出された夏期読書感想文課題で読んだ。靖國神社のコスプレ老人を目にしたからか,いま再び読み直したくなった。

古典文庫『秋成狂歌集』もアマゾン古書で出ているので,リンクを付けておく。