アルノルト・シェーンベルクは十二音技法による無調性音楽を確立した現代音楽の創始者として知られている。しかし,彼の無調音楽はきわめて抒情的であり,感情,官能,頽廃に満ちていて, 20 世紀「現代音楽」というよりもむしろ 19 世紀のロマン主義のほうにより近いと思う。初期の弦楽四重奏曲第一番などは,ブラームスを思わせる熱情的で美しい旋律が聴かれる。
私は彼の室内楽が好みで,弦楽四重奏曲,木管五重奏曲,ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲,声楽曲のどれもが素晴らしい。いつもは CD で楽しむんだけれども,今日のお休みは,古いアナログレコードで彼の弦楽四重奏曲全集を聴いた。ジュリアード弦楽四重奏団の演奏による,1975 年録音の CBS 盤である。CD の時代になってからは,アルディッティ四重奏団演奏 CD をもっぱら掛けているんだけれども,演奏の質,抒情的節回しにおいては,いまだに私はジュリアードの盤が最高の録音だと思っている。この盤の CD 化がなされないのが大いなる不思議なんである。
ヒロイズムすら感じさせる第一番ニ短調,シュテファン・ゲオルゲの二つの詩を第三楽章・第四楽章にフィーチャした第二番嬰ヘ短調は,ブラームス風の悲劇的旋律に無調性の新しい音響を融合させた,ロマンの香り高い作品である。第三番,第四番は十二音技法と特殊奏法の多用によるまったく新しいソノリティに根ざしているため,古典音楽に聞き馴れた耳には異様に響くかも知れないけれども,新しい時代に相応しい感情が横溢している。
私は 1927 年に作曲された第三番がいちばんの好み。ウィーンのウニフェルサール・エディツィオン社 Philharmonia Partituren スコアを片手にいつも聴くんである。第一楽章 Moderato がよい。ヴァイオリンが奏する音域の広い第二主題は,優雅で,官能的で,悠然として美しい。主題が基礎音列の逆行形,反行形という形で不断に変奏されつつ,楽曲が進行する。再現部でチェロが息の長い主題旋律を歌い上げるところが私にとっての最大の聴き所である。
A. Schönberg - Streichquartette I-IV
Arditti String Quartet, 1994 AUVIDIS
ジュリアードによるシェーンベルク弦楽四重奏曲全集はもう入手困難である。CBS によって CD 化されるのを期待したい。以下に,アルディッティ弦楽四重奏団による仏 Montaigne 盤のアマゾンリンクを掲げておく。
D. Upshaw (Soprano)
Disques Montaigne (2000-11-14)