深夜食堂

TBS 火曜日の深夜 0 時半過ぎから放送される『深夜食堂』は,数少ない愛着のあるテレビ・ドラマのひとつである。映像が通常のテレビ・ドラマのビデオ画質ではなく,映画のようなフィルム画質である。そこが懐かしいのである。毎回,世の中に疲れた人物が主人公になり,小林薫扮する『めしや』のマスターの作る深夜の料理で癒される。ドラマ最後で,配役が料理の簡単なレシピまで説明する。この深夜番組を観ると,出て来た料理が無性に喰いたくなる。この前観た回ではクリームシチューだった。寒い深夜のクリームシチュー。食べたい食べたい。

家に帰らぬ小説家・鈴木(吹越満)とその娘・花(朝倉あき)の物語は身につまされた。花はこの就職難のなかキャバクラでバイトをしながら就職活動をしている。せっかく決った企業にキャバクラ稼業がバレて内定は取り消し(でも,そんなことで内定取消されるかなー?)。デリヘル嬢などの仕事をするしか手がない。家族を棄てたような執筆生活の気晴らしに,鈴木はあるときデリヘルを依頼する。ところがやって来たデリヘル嬢はなんと娘の花だった。こんな残酷な話があるか? そのときの鈴木の歪んだ顔に,胸をえぐられるくらい哀しくなってしまった。生活のためにこういう仕事を女性がしなければならないことがある。そしてそれが自分の家族だったらどうか。桃色遊びをする世の男性は,自分の娘,妻と対峙する覚悟を持つべし。最後は鈴木親子 3 人,深夜食堂でクリームシチューを食べるシーン。これが救いである。

それにしても,小説家役の吹越満がいい味を出していた。この人,性格俳優として定評がありいまでは人気俳優になっているけれども,20 年近く昔,喜劇的少女戦隊もの『有言実行三姉妹シュシュトリアン』で,フライドチキン男なる脇役を演じていた。おそらく東映の大部屋俳優だったのだろう。それで私の記憶に残った。こんなことを知っているのは,当時幼い子供のいた私のようなオヤジだけだろう。『有言実行三姉妹シュシュトリアン』は,思うに,単なるヒーローものではなく,世相を見事に反映・風刺した名作である。矢野顕子の『あなたには言えない』がエンディング・テーマに使われているのもよかった。DVD でも観られるようなのでぜひ御覧あれ。
 

付記

『あなたには言えない』を収録した矢野顕子のアルバムをリンクしておきます。私のお気に入りの一枚。

LOVE IS HERE
矢野顕子
エピックレコードジャパン (1993-06-02)

2012.6.30 付記

DVD でも出ましたね。上記の回は第二部に収録されているはずである。