日韓首脳会談

韓国の李明博大統領が来日した。冷戦時代から日韓は米国と同じ価値観を共有する僚友として歩んで来たはずであるが,最近,両国の相互の国民感情は悪化の一途を辿っている。その焦点になっているのが竹島問題と従軍慰安婦問題。

今日 18 日,京都で日韓首脳会談が行われた。韓国国民の世論を反映して,時事通信配信ニュースによれば李明博大統領はここでもこの二つの問題をテーマにした。野田総理は「わが国の法的立場は決まっている。決着済みだ」と強調し,韓国の日本大使館前の慰安婦像の撤去も要求したらしい。「議論は平行線に終わった」とのこと。決裂した印象を与えること — これでよいと思う。それでも「未来志向の関係構築に努めることでは一致した」のだから,日本政府としては上々である。韓国側の抵抗は「第二,第三の少女像が立つ」云々。これじゃ「李さん,あんた何しに来たの?」てなもんや。この問題について日韓両国だけでぎゃあぎゃあやっているうちは,事案としてはまったく心配がない。

従軍慰安婦問題はジェンダー・性倫理観と直結するデリケートな事案である。日本側は従軍慰安婦の存在をいまさら否定すべきでない。「狭義の意味で」などというバカげた解釈レベルの問題で従軍慰安婦の存在を否定した安倍元首相のような発言こそが,この問題を大いに拗らせる。こんな「責任逃れ」は右寄り日本人以外の誰の納得も得られず,「日本人ってヤツは女性を組織的に慰みものにしながら涼しい顔していやがる。何が美しい日本だ。恥を知れ」という印象しか残さない。また,日本人の一部は,ドイツだって,ロシアだって,もっというとヴェトナム戦争時の韓国だって,と他国の組織的強姦の事実を持ち出す。これは己を棚に上げる自己正当化でしかなく,問題を混ぜっ返すことにしかならないのに。バカとしか言いようがない。日本政府は,元「慰安婦」の人たちの心情にも気を配りつつ,冷静に態度を決めて行く必要がある。

2007 年に米国で従軍慰安婦問題に関し対日非難決議案が可決された。これこそ外交的敗北。これこそ最悪の事態。先の安倍元首相の発言はこの最悪の事態になされたものであるが,安倍晋三に輪を掛けた自民党バカ議員たちが米国で「それは誤解です」みたいな新聞広告を掲載し,対日感情悪化の火に油を注いだ。これで韓国(と,従軍慰安婦問題を米国で焚き付けた中国)は「従軍慰安婦問題」が日本の国際的イメージの急所であることを確信してしまった。そして今年になってまたぞろ従軍慰安婦問題が再燃。これには理由がある。日本が震災・原発事故で弱っているところに,韓国はつけ込んでいるのである。この野郎。韓国は,来年,大統領選挙もある。李明博大統領も成果を急いでいるのだ。ま,すぐ熱くなるいまの韓国政府なら,日本にとって何も畏れるに足りず。何の心配もない。「日韓友好! ところで竹島は日本固有の領土です」を繰返しておればよい。

外務省は今年の 8 月になって『慰安婦問題に対する日本政府のこれまでの施策』を Web に掲載し,日本政府の努力を広く知らしめようとした。「日韓基本条約において解決済み」という公式見解を崩さない一方で,過去の行いに対する道義的責任の取り方としては,アジア女性基金はたいへんよい施策だと思う。そうそう,こういう路線がよい。外務省もよい仕事をしている。ただ,どうしてこれをもっと世界にアピールしないのか。米国の議会などできちんとロビー活動をして,こうした施策をとっていることを海外世論に訴えて,韓国政府に付け入るスキを与えないようにしてほしい。