受験生の心得

先日会社から帰宅したら,高校二年になる娘が,テレビで『受験生の心得』みたいな番組を観ていた。所ジョージがゲストで出演していた。大学に合格したばかりの大学生(もちろん東大,早大などの一流大学である)が自分の体験から,こうしたほうがいい,こんなことはやってはいけない,等々,これから受験を控える高校生にアドバイスをする,そういう番組だった。娘と一緒に私もちょっとだけ観た。

息抜きは 30 分以内とせよとか,無理な勉強よりも健康管理が大事だとか,受験前に恋はするなとか,受験に成功した先輩の口から出て来るだけに,受験生にとってはフムフム,ナルホドリなのかも知れない。でも,大人の目から見ると,もっと大切なことがあるだろ,という感じであった。こんなの「役に立つ」わけない。当たり前だからだ。こんなことで大学受験は「左右」されない。こんなことしたって,何より興味をもって勉強しないヤツが大学なんか行けるわけねえだろ。自分に合った目標を決め,その達成に応じた,日々の進み具合がわかる計画を立てて,実行する。定期的に計画実行がうまく進んでいるかを評価し,課題を見つけて解決を図る。これは,目標をもったあらゆるプロジェクト運用の骨子である。アドバイスするなら,この営み(工程管理)のコツを問題にすべきなんだ。とまあ,私はわかったような口ぶりで娘にブツブツ言う。

オレも大学受験では苦しんだ。勉強も計画通りに進んだ試しがなかった。小説を読んで「息抜き」ばかりをしていたような気がする。つまり,受験勉強について娘にアレコレ小言を言える資格は,まったくないのである。そもそも大学受験なんてもう二度としたくない。しかし,いまになってもう少し勉強しておけばよかったなと後悔するばかりである。もう少しいい大学に行けたんだが,というのではなく,純粋に,もっと勉強して知識をきちんと身につけておくべきだったという悔いである。ま,「もう遅い」という年齢でもないけれど。

歳を取るにつれ,大学なんて別に行かなくてもよいと納得するようになる(私は大学で勉強できて本当によかったと思っているけれども)。そして,もっと勉強しておけばよかったと切に思うものである。ウチのガキどもが勉強嫌いで試験でアホな点数を取って帰って来ても,私は何の怒りも覚えないし,そんなことで叱るなんてことはまずない。お父さんからもちゃんと言ってやってよ,と逆に私が妻に叱られている。試験でいい点を取って帰るよりも,クラブ活動で先生からコテンパに叱り飛ばされても辞めずにバレーやテニスに打ち込んでいる子供たちをみているほうが安心する。こうして,プレッシャーに強く,きちんと仕事をする人間になってくれればそれでよい。

最悪なのは,思うに,どれだけ勉強ができても,他人に叱られるプレッシャーに弱く(成績優秀者は誉められてばかりいたからか,このタイプが多い),志望大学と同様にブランド志向をもって仕事に就く者である。もう二十年以上サラリーマンをやり,何人も部下の面倒をみて来ると,このタイプがすぐわかる。彼は,厳しく叱られると,萎縮して何もできなくなる。そのためか,失敗や間違いを犯すとバレるのを怖れて嘘を吐く(これがこのタイプを判断する決め手である)。責任を果たすことより,叱られないことを優先する。プロジェクトが納期・品質問題のために担当者皆がヒーヒー言いながら徹夜続きに晒され,日々カッカしているようななかで,上司からガーガー叱られて,彼は落ち込んで会社に来なくなってしまうことがある。真面目で何かにつけ「完全」を目指して頑張るのはよいが,必要なときに必要なレベルのアウトプットが出て来ない(こちらは 30 点の出来でもよいからいますぐ成果を要求しているのに,いつも 100 点を取らなければならないと考えている)。私の経験では,このタイプは,何故か,地方の国立大学(いわゆる駅弁大学)出身者に多い。逆に東京私大出身者はたいていバイタリティがあって仕事においても優秀である。不思議である(早稲田はまず間違いがない)。企業が,学業成績などは露程にも目を留めず,体育会系学生(不条理な叱責と,試合のプレッシャーとに馴れている)が好きなのも,このあたりに理由があるのか。

なんか仕事の愚痴みたいなノリになってしまった。勉強なんて出来なくてよいから仕事をする人間になれ。私は子供にはもうこればかり言っている。いい大学に行くことも大事よと言う妻は,ちょっと迷惑そうにしているんだけど。
 

付記:「ブランド志向」というのは意味のよくわからない言い方だけど,手足よりも頭を使う仕事を,地方支社より東京本社勤務を望む,そういうようなイメージである。テレビの安い恋愛ドラマを観ていると,主人公が「本社」勤務になる・ならない,「企画」の仕事ができる・できない,云々で悩む姿をよく目にする。このとき彼の職種は広告代理店やマスコミが多い。どうも「本社」で「企画」の仕事をする,というのがスマートな仕事人像らしい。私は,メーカーに勤めているからか,こういうのをみると虫酸が走るのである。若い人たちはこういうのをみてカッコいい仕事のイメージを作り上げているのだと思う。ま,それは勝手なんだけれども,現実はカッコいいもクソもなく,目の前にある責任を果たすことが仕事であって,それを毎日毎日やる人こそが仕事人なのだと私は思っている。