Leoš Janáček - Streichquartett I, "Kreutzer Sonata"

レオシュ・ヤナーチェクはチェコの大作曲家である。管弦楽曲,室内楽曲,ピアノ曲,オペラ,そのいずれも傑作ならざるはないといってよいほどである。私はなかでも彼の残した二つの弦楽四重奏曲をことのほか愛している。故障した再生装置が復活し,秋の夜長にはやはり室内楽を,というわけでヤナーチェクの弦楽四重奏曲第一番『クロイツェル・ソナタ』(1923 年作品)を聴く。

全曲の熱情的性格を決定付ける出だしのテーマ。ある人は「かぐやーひめー」を思い起こすかも知れない。
 

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この曲はトルストイの小説『クロイツェル・ソナタ』の読書が作曲の契機になった。小説は道ならぬ恋に生きた主人公の不幸な生涯を描いている。トルストイ晩年の「道徳」教育めかしたストーリに,年老いて恋に溺れた作曲家は「倫理」的な違和感を覚える。その思いが音楽に結晶した作品ということになっている。激しい恋愛感情がスルポンティチェロのトレモロや,延々たるスタッカート,激しく変化する調とリズム,そんな弦楽の奔流となって,曲はこの上なく美しい「不幸なる愛」の表現になっている。不倫の恋の浪漫と評したいところだけれども,その弦の音響は疑いなく二十世紀音楽の先鋭なディナーミクに支えられており,伝統的なクラシック音楽の自動化した和声に親しむ者には — とくに第二楽章は — 騒音にしか聞こえないかも知れない。

私のお勧めの盤は,スメタナ四重奏団が 1979 年にプラハ,芸術家の家・ドヴォルザーク・ホールで演奏したライヴ録音である。当時の DENON 日本コロンビアが日本の録音技術の粋を尽くして録音したものである。スメタナ四重奏団はこの曲を譜面なしで演奏する。とにかくリズム感,強弱感が素晴らしい。第四楽章の第二ヴァイオリンとヴィオラの 32 音符の伴奏には他の四重奏団には出せない切れがある。老齢のため解散してしまった四重奏団だが,私は学生時代に札幌で彼らのモーツァルト・ハイドンセットを聴くことのできた幸せ者である。ヤナーチェクも聴いてみたかったな。でも,この盤がそのよすがとなっている。私は学生時代に買ったアナログ・レコードをいまだに愛聴している。いまこの盤は CD としても入手できるようである。そのアマゾン・リンクを設置しておく。
 

 

私は学生時代にオーストリアの Philharmonia Partituren シリーズにあるこの曲のスコア(校訂者はスメタナ四重奏曲のヴィオラ奏者・ミラン・シュカンパである)を手に入れ,レコードを聴く時に参照したものである。当時は二十世紀音楽のスコアを入手するには,東京や大阪の山野楽器ないし日本楽器の大きな店舗に行き,高いお金を払う必要があった。ところがいまやインターネットで無料でスコアの PDF が見られる時代になった。ヤナーチェクの第一カルテットもここからダウンロードできる。
 

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