歌川国芳の画集を古書で入手した。古書といっても,今夏に没後 150 周年を記念して開催された回顧展のカタログ『破天荒の浮世絵師 歌川国芳』(NHK プロモーション制作,2011 年)である。
国芳は幕末の動乱期を生きた。洋の東西を問わず動乱期の藝術は,既成の価値観が動揺し,文化史的にマニエリスム的な傾向を帯びるものだが,国芳の場合も,アルチンボルド風騙し絵あり,オランダ絵画に倣った風景画あり,と伝統的な浮世絵師の概念から大きく逸脱する作品も残している。絵の題材の厳しい制約 — 当時,天保の改革以降,芝居役者を描くことは禁じられていた — をかい潜るために,落書き風に描いた変った絵もあり,現代ならさしづめ「ヘタウマ」路線のような試みまでしている。それゆえに「破天荒」なる形容が相応しい絵師のひとりになっている。彼は猫をたいそう可愛がったそうで,猫が登場する戯画をたくさん描いている。
彼の作品の最高峰は武者絵と妖怪画だろう。伝奇物語に取材したダイナミックな構図と色彩は,現代クリエイターの関心をも惹き付けて止まないものがある。侍が巨大な骸骨と対決する妖怪画『相馬の古内裏』はなかでも有名で,私も江戸絵画でもっとも好きな作品のひとつである。国芳展の情報がアンテナに引っかからず,実物を拝めなかったのがつくづく残念である。さしあたりこの画集を眺めて楽しもう。
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