放射線,ユーロ危機

世田谷区の住宅街で強い放射線量が検出され大きな話題になった。最新のニュースによれば,福島原発事故と直接には関係がないようである。それでも福島原発事故はチェルノブイリと同じレベル7というのだから,放射能の拡散においても同程度の危機感を煽ってしかるべき。チェルノブイリの場合は,事故現場から 350 km のような遥か遠く離れたところにも,高放射線量を示す「ホットスポット」がいくらでもあるらしい。放射性物質はそもそも,政府が暫定的に示した半径 20 km 以内云々などとは無関係に,気象条件その他の要因によりランダムに拡散するのだから,雨風その他もろもろに乗って意外な場所に汚染が広がっているのは想像に難くないのである。

それにしても,最近あまり騒がれなくなりつつあるからか,福島原発の事故対応状況がよくわからない。わからないながらも騒がれないので,なんとなく時間が解決してくれるような感覚に近くなっていないか。政府は除染をきっちりやると言っているけれども,通常の事故対応というものは,事故により発生する害毒の出所を止めるフェーズ,撒き散らされた害毒を消滅させるフェーズ,被害者を救済するフェーズがあると思われる。そして対応状況は,そのそれぞれの全体作業規模と収拾過程とがセットになってこそ,その進捗が判断されるべきもののように思われる。ところが,刻一刻と更新されている東電の報告書を見ても,これをしました・こんなことが起きましたばかりで,その作業規模と進捗状況がまるでわからず,おそらく原発事故というものは,われわれのようなシステム屋の事故対応観念からは測り知れないくらい,処置が難しいんだろうな,と溜め息が出るばかりである。東電の技術者は地獄のなかで頑張っている。マスコミにはこの3フェーズの進捗状況を「翻訳」してきちんと国民に伝えてほしいと願う。

世田谷はどうも違ったようだが,それでも,本当に危ない「ホットスポット」が福島から遠く離れたところに見出されるのは時間の問題のように思う。日本に住んでいる以上もはやどこか腹を括らないといけないのかも知れない。チェルノブイリ事故対応でウクライナ政府がいまだに手を煩わせていると聞くと,日本も少なくとも向こう三十年はこの事故を背負わなくてはならないのである。そのへん,外国人はシビアに理解していて,先日行われたF1日本グランプリで来日したあるチームは,メンバーに日本の食材を口にすることを禁じたという。福島から遠く離れた鈴鹿なのにですよ。でもこれは,リスク管理として当然の判断である。この状況じゃ TPP による農産物の自由化なんて,日本が食い物にされて終わりなのかも知れないなと思ってしまった。あんたんとこの農作物はベクレルベクレルしてもうて危ないからうちは買いまへんけど,うちの国からは関税なしに買えるようになりまっせ,てなもんや。
 

* * *

日本産は安全神話(もともとただの「神話」であるが)が崩壊しこんな感じで危機的事態にあるんだけれども,円は高値安定。製造業を中心に輸出で成り立っている企業はどんどん海外に出て行く。中小企業はヘトヘトの状況である。国家の危機に際しては経済も下降し,通常はそのために通貨の価値も下がるはずだと思うんだけど,円はそうではない。そして円高だと産業がダメージを受ける。この二点が私にはどうしても理解できない矛盾したことのように思われる。通貨の価値が高く評価されているのは経済力に対する国際的な高い信頼を示すはずではないか。なんか誰かが詐欺まがいの経済学を流布させてるんじゃないかと思ってしまう。

その一方でユーロはいま,ギリシア財政問題に端を発する欧州金融危機・ソブリン危機で非常に危ない事態になっている。一時期 170 円近かった 1 ユーロはもう 105 円程度になりつつある。イタリア,ポルトガルも危ないのではと言われている。ドイツとフランスが頑張るらしいけど。欧州が破綻したらどうなるんだろう。

これに比べたら日本は,借金まみれのダメ政府,大震災による疲弊,原発事故の十字架,などなどの危機的状況であるにもかかわらず,なんで経済的信用が高いのか。じつは破局がまだ見えないだけなのか。

政府は年金支払い開始を 65 歳からさらに引き上げようとしているようである。俺たちは死ぬまで(日本人らしく)働かなければならず畳の上では死ねない,と考えざるを得ません。欧州の心配をしているどころじゃないというのが生活人としての愚痴である。
 

* * *

日本 VS タジキスタンの W 杯予選見ましたよね。日本は格の違いを見せつけてくれました。駒野選手までがゴールしちゃうというあまりにヌルい草サッカー。私は途中から真面目に見る気がしなくなり,泉鏡花読書のほうに注意が行ってしまうくらいであった。それでも,日本代表は,大量リードの割には 90 分間集中を切らさず手を抜かず,チームメートを思いやるプレーも随所に見られた。中村憲剛選手さすが。本田,遠藤のスーパーサブはこの人しかいません。年が年なんでそれだけが心配だけど,柏木選手や家長選手には到底真似の出来ない「広い視野」をもっている。ボールをもった瞬間に出す場所を判断できる「広い視野」— これが,本田・遠藤選手以外の日本選手に決定的に欠けているところなんである。タジキスタン代表もフェアプレーに徹してくれた(ロシアをはじめとする旧ソ連の国々のサッカーは,少なくとも中国や韓国よりも,フェアかつ「真面目」だという印象がある。ウズベキスタンも極めてスマートなサッカーをする)。こんな試合は荒れると思った私の期待を別な意味で裏切ってくれ,幸せでした。ま,まだまだブラジルは遠いんだけど。

それはそうと。なでしこジャパンの佐々木監督と澤選手が秋の園遊会に招かれた模様をニュースで見た。陛下と言葉を交わす澤選手がガチガチに緊張しているのが笑えた。振り袖(!)を身に着けた澤選手なんて想像だにしなかったのだが,意外と(失礼!)女性らしさが清々しくて,とてもチャーミングでした。

やっぱ,私はただの生活人であって,放射線,ユーロ危機も気になりますが,スポーツ・芸能の話題で癒されてしまう。わが国の政府と同じで,まったく「危機感」がありません。