デニス・リッチー死去

先日スティーブ・ジョブズの死去がトップニュースで報道され,大きな話題になった。確かに,アップルの今後の動向は IT 業界に大きな影響を与えるので,当然の扱いである。今日,デニス・リッチー死去のニュースがひっそりと掲載されていた

でも,私のような 1980 年代に計算機の素養を身に付けた者にとっては,デニス・リッチーのほうがスティーブ・ジョブズよりも,遥かに,何倍も,圧倒的に,ネームバリューが高いのではないだろうか。ブライアン・カーニハン,ケン・トンプソンなどとともに,デニス・リッチーの業績は,Programming language C,UNIX という,現代の計算機基盤の創造と直接に結びついているからである。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが「ビジネス」にして大成功した,その礎を築いたのが彼らだからである。

私にとって,デニス・リッチーは計算機「文化」の生けるレジェンドであった。彼の名著『プログラミング言語 C』に,どれだけ多くの人が C の文法のみならず「プログラミング書法」というものを教えられただろうか。私はこの本を読んで,プログラミングは間違いなく文化表現たりうるという確信をもったものだった(この本についてはここに記した)。そのレジェンドがとうとう歴史のなかに移行しようとしている。私には,敬愛する大作家が亡くなったような,そんな感慨がある。

 
プログラミング言語 C 第 2 版 ANSI規格準拠
B. W. カーニハン, D. M. リッチー 著
石田晴久 訳
共立出版