F1 グランプリとその思い出

先週末行われた韓国グランプリで,レッドブルのセバスチャン・ベッテルが今季 10 勝目を上げ,3 戦残して早くも F1 世界チャンピオンの座を確定した。しかも二連覇。レッドブル・レーシング・チームもコンストラクターズ・タイトルを獲得した。

私はここのところ,日本の若き F1 ドライバー・小林可夢偉にしか注目していない。日曜の夜中に放送される中継録画も,たまにしか観戦しない(だって,次の日は仕事ですよ。フジテレビは何考えてんだか)。レースそのものにあんまり関心がない。マシンの実力差があまりに激しくてつまらないのである。それでも,高校を卒業する 1980 年あたりまでは,レース情報雑誌『Autosport』を毎号購読し,熱心にグランプリ・レースをフォローしていたものである。新聞やテレビでほとんどモータースポーツの話題がなかった時代(大昔のギターと同じで,ガキっぽい — 暴走族のイメージに結びついた — 不良の道楽のように見られていたのだ)。小学校 6 年生のとき友人に JAF が刊行する F1 グランプリ年鑑写真集(ジョー本田の素晴らしい写真が掲載されていた)を見せてもらい,雑誌などの僅かな情報を持ち寄って友人と楽しむようになった。中学生になり,映画『F1グランプリ』を観て,ジャッキー・スチュワート,フランソワ・セベールに魅了され,F1 の虜になってしまった。プラスチック・モデルをいくつも拵えたものである。当時,スーパーカー・ブームというのがあったのだが,私はそんなものよりもずっとフォーミュラ・レーシング・カーの野性的な美しさに魅了されてしまっていたのである。

1975 年から 1980 年にかけては,イタリアのフェラーリの復活・全盛時代だった。1960 年代までのフォーミュラ・レーシングカーはいわゆる葉巻型の皆似たような車が競い合ったものだが,1970 年代に入ると空気力学の進歩に伴いマシンが戦闘機のような機能美をもつ美しい姿になった。そして,エンジンこそフォード・コスワース DFV 8 気筒とフェラーリ・水平対抗 12 気筒との実質的に二つのエンジンのしのぎ合いではあったが,マシンの外観は各チームごとに個性豊かになった。1976 年には 6 輪車(タイレル・フォード)までが登場する個性的な時代だった。そして,これは私の主観に過ぎないかも知れないけれども,フェラーリ 312T シリーズは,このなかでも抜きん出て速く美しい車だったのである。フェラーリは 75 年,77 年,79 年にドライバーズ・チャンピオンシップを獲得した。「速くて美しい」— これは決定的な魅力だった。私にとって,1979 年の 312T4,1980 年の 312T5 は最も美しい F1 の記憶である。このときフェラーリを駆ったカナダのジル・ヴィルヌーヴは私の贔屓のドライバーだった。

ジル・ヴィルヌーヴは時に無謀ともいえるオーバーテイクでダイナミックなドライビングを見せてくれる,命知らず(よって時代遅れ)のレーサーの代名詞的存在だった。1977 年の日本グランプリで,富士スピードウェイの第一コーナーにおいて彼が無理な仕掛けをしたために,他の車と接触し後輪に乗り上げ,舞い上がった車体がそのまま客席に落下し,彼自身は無傷だったにもかかわらず,観客が二人死亡してしまった。これが,その後長らく日本グランプリが開催されない直接の原因となった。さらに,それから 5 年後,ヴィルヌーヴ本人が 1982 年のベルギー・グランプリで事故死してしまった。彼には二人の幼い子供がいたこともあり,その傷ましい死に私は大きなショックを受けたものである。

1980 年代に入ると空気力学的車体構造の進化がある飽和段階に来たのか,マシンのデザインがまたまた各チーム似たようなものになりはじめた。1980 年のグランプリ・シリーズを制したウィリアムズの最強マシンは,まるでカモノハシのような醜いフロントノーズをしていた。醜いマシンが私の最も美しいと思っていたフェラーリ 312T5 を楽々と抜き去る時代になった。フェラーリはまたもや長い低迷時代を迎えることになった。速さと美しさが別物に感じられはじめた(速いものこそ美しい,と人はいうのかも知れないが)そんなころ 1982 年のヴィルヌーヴの事故死があり,私の F1 への関心は薄らいでしまったのである。大学に入って文学や音楽のほうにハマってしまった次第。ホンダがマクラーレンと組んで F1 コンストラクターとして復帰し,アイルトン・セナが華々しい連勝街道を突っ走った 1988 年 〜 1991 年,日本パワーの躍進にはさすがに心が躍ったけれども,グランプリ・レースそのものへの関心はもう失ってしまっていた。車が大好きなのに運転免許も取得していないのはその所為かも知れない。自動車は危ないから。

ジル・ヴィルヌーヴのフェラーリ 312T4, 312T5 が懐かしい。私にとってはこのマシンがいまだにいちばん美しい。若い人から見れば,「神様・仏様・稲尾様」,「巨人・大鵬・卵焼き」とまったく同じ。まさに終わってますね。

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Gilles Villeneuve with his Ferrari 312T4 in Autodromo Enzo e Dino Ferrari, 1979.
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