10 日未明に行われた,ドイツ女子ワールド杯サッカー準々決勝ドイツ VS 日本戦は,日本女子サッカー界にとって歴史的な一戦となった。私は独りテレビの前で — 当然ながら缶ビールを手にしつつ — 観戦していた。眠気も吹っ飛ぶ凄い試合であった。
先日のイングランド戦で気迫のいまひとつ感じられないへんな負け方をしていたし,ワールド杯二連覇中しかもホスト国の強豪ドイツが相手の完全アウェイのなかなので,正直,私は日本が目も当てられない惨敗を喫するのではと予想していた。しかし試合がはじまって,なでしこ達がイングランド戦とはまったく違っているのに眼を見張らされた。凄まじい気迫。前線からの激しいプレスと玉際への集中力とで,これじゃ 90 分間もたねぇと心配になって来た。ところが後半に入ると,日本のボールポゼッションと,素早いパススピードと,なかなか先制点が入らない焦燥感とで,逆にドイツ選手の方が体力的・精神的に消耗していることがありありとわかり — その紛れもない徴候がファールを期待する転倒の多さであって,これをやりはじめるチームは集中力が散漫になってしまい勝てない,というのが私の見方だったのである —,こりゃもしかすると日本にも勝機があるかも知れないとほんの少しだけ期待が出て来た。ほんの少しだけ。
延長後半 3 分,走り出した丸山選手をきちんと見ていた澤選手がウラへ絶妙なパスを出す。左サイドから安藤選手が中央に走り込んでいたが,「自分で行け! 自分で!」と私は大声を張り上げていた。丸山選手は,彼女に取っては唯一といっていいシュートチャンスをきっちりモノにした。元女子日本代表の NHK 解説者が解説者らしからぬ金切り声で「カリナー(丸山選手の名前),カリナー,カリナー,カリナー,入ったー!」と喚き散らしていたのが印象的である(この人の解説はなにがなにやらさっぱり意味不明であった)。しかしながら,ドイツの選手もこの疲労感絶頂の時間帯で絶体絶命の先制点を許しながら,プッツンと切れてしまうことなく,冷静に猛攻を仕掛けて来る。さすがドイツ。その後の 10 分あまりはハラハラドキドキ。日本はハッキリしたクリアをしまくり,そのたびに流れが断ち切られ時間が過ぎ,相手からすればコノヤローモードで冷静に時間を埋めていった。終了の笛がなり無失点で勝利した瞬間は「信じられん」を繰り返しておりました。NHK の実況アナウンサー(有名な人である)の声も,歓喜で裏返っていた。
こういう試合を観ると,強い相手に対しては,高速パスを基本に守備意識を高くもって少ないチャンスに攻撃の集中力を絞るスタイルしかないなぁと納得してしまう。後半早々,エース永里選手を交代させたのは,守備と攻撃の切替えの運動量が足りなかったところを佐々木監督が敏感に見切ったからである。その采配が決定的な結果をもたらしたわけだ。さすがだと唸ってしまった。男子 A 代表と比べると,なでしこジャパンはディフェンダーの運動量が凄くてしかも基本に忠実であって,私は彼女達の強さはやっぱり後ろの四人にあると思う(キーパーの判断がちょっと遅いのが問題だけど)。次の準決勝は,これまたガタイのでかい強豪スウェーデン。しっかりとコンディション(もうここまで来たら選手のコンディションがすべてである)を整えて同じような試合運びが出来れば,勝機はあると確信している。イングランド戦ではどこか心によくない余裕があって引いてしまったけれども,このドイツ戦での勝利でもう同じ轍を踏まないだろう。
追記:澤選手がドイツのでかい選手にヒールでアソコを蹴られて猛烈に苦しんでいた。サッカー選手に蹴られちゃ,ボクサーにストレートを喰らうのと同じだ。私も股間を蹴られてぴょんぴょんもがき飛んだ経験があるが,女性もあれほど苦しいのかとゲビた興味を掻立てられた。幸いというか執念というか,その後澤選手はピッチに復帰し,果たして素晴らしいアシストをやってのけた。前回・北京での敗退時の彼女の悔しがる姿が目に焼き付いているだけに,いっそう今回の勝利には値打ちがある。それにしても,弱小だったなでしこジャパンがなぜここまで強くなったのか。あの高速かつ正確なパスサッカーは,対戦相手にとって恐らくもっとも怖いサッカースタイルである。10 年くらい昔は中国にも勝てないくらいだったのだ。それを痛いほど知っているだけに,私はこの強さをまだ信じられない。