頭を冷やせず — あるいは,なでしこ熊谷の超高額の有名税

サッカー女子代表のワールド杯制覇の話題で持ち切りである。この瞬間を目の当たりにした興奮を,いまだに冷ますことができずにいる。

有名人にはゴシップがつきもの。で,早くも熊谷選手がパンピー大学生に後ろから刺されてしまった。このバカ大学生の暴露的ツイート自体は,大した内容じゃないのだけど,時期が時期だけに騒ぎが大きくなってしまっている。熊谷選手だけでなく佐々木監督までが謝罪しなければならない事態になってしまった。常識的にはこのバカ学生こそが謝罪しなければならないのだが,世間は,虫ケラには謝る口がないということがわかっているようで,虫ケラに刺される側の脇の甘さを追及することになる。有名になればそれだけ言動には慎むべきという意見が世の中にはあって,私もそれに異論はない。けれども,超一流の人物が何の取柄もない虫ケラ的俗物に — そう,こんなことを書いている私のような俗物パンピーに —,ハナクソのような下らないことで足下を掬われるのは,見たくない。

それにしても,なでしこジャパンの選手たちだって,サッカーを離れれば普通の女の子なのである。おまけに,これまで男子代表のような待遇とは無縁の境遇にあったわけで,彼女たちのほとんどがサッカーをプレイする前に,労働者として,学生として,私たち一般人と同じ生活を余儀なくされている。その点では,金満セレブリティとは無縁の,地を這う生活のなかの楽しみ,苦しみを,私たちと同じ目線で共有しているはずである。

だから,今回,彼女たちがかくも偉大な業績を成し遂げたからには,彼女たちに一時のカルナヴァルを与えてやってもよい,と私なんかは思う。できることなら,彼女たちに,仕事もサッカーもひととき忘れて,恋人と一日中同衾する,新宿のナンバーワン・ホストクラブで一晩豪遊する,くらいはさせてやりたい。税金を使ってでも,させてやりたい。

それなのに,有名人にタカりたい虫ケラパンピーは,超一流人たちのそんなかりそめの息抜きをたまたま見かけて,携帯電話を取り出してインターネットでコソコソ「こんなことやってたよ」と書き込んで面白がるんである。なでしこの選手たちも,これからは「有名人」として我が身を処して行かなければならない。でも,その前に「有名人」に相応しいインカムを彼女たちに授けてやらないと,あまりに可哀相ではなかろうか。収入は私たち虫ケラパンピーと同じなのに,超高額の「有名税」を支払わさせられるなんて理不尽である。
 

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私のようなハナクソでも,ある官庁入札案件にからんで危ない書き込みを2ちゃんねるにされた経験がある。2ちゃんねるには,企業の内部情報を一抹の事実に根も葉もない尾ひれをつけて面白おかしく書き込むスレッドがわんさかあるんである。たいていは企業内部にいる「面白くない」社員の仕業だと思う。品質保証部や総務部は,危機管理上,世の中のニュースのみならずそういうバカ者共の病んだ内面の発露をも結構丹念にチェックしている。

当時プロジェクトの責任者であった私は,品質保証部からその悪意ある書き込みについて報告・呼び出しを受け,対策会議をしなければならなかった。この陰険野郎を暴き出して血祭りに上げてやる,と私は怒り心頭に発したのだが,死ぬ程の多忙のなかで信頼のおける子分につまらないネットワークログ調査をさせるのは断念した。幸い,2ちゃんねるの大量一過性という,まさにパンピーらしさを備えるはかない本性のおかげで,くだんの書き込みはすぐ埋もれてしまい,対策会議で決めたリスク回避手段を採る必要はなかった。

それでも,業務中に2ちゃんねるに書き込みを行う社員を見つけたら,親御さんには申し訳ないが即刻クビにしてやる,といまだに私は息巻いている。事件以来,2ちゃんねるや Yahoo! コメント欄にカキコしているヤツをアプリオリに虫ケラ・ハナクソ・パンピーと断じてしまうようになってしまった。

今回,熊谷選手は Twitter 被害に遭遇した。2ちゃんねるでもこの件でバカ・スレッドが乱立するのが目に見えるようである。Twitter は名のある権威者が簡潔に,ダイナミックに情報発信できるメディアとして画期的なツールなのだが,匿名の虫ケラ・ハナクソ・パンピーに使わせると,哀れなくらいなゴシップ・チェーン・ツールに,あるいはグチッターに堕してしまう。

英語の twit はそもそも「なじる,やじる」という意味である。また,「バカ,まぬけ,くだらんやつ」という名詞的用法もある。よって,Twitter が無名バカの毒づきツール,グチッターに堕することは,開発者自身の本懐なのかも知れない。名は体を表す。米国人のイロニー。