物理の宿題

娘が Mac を貸してくれと来た。物理で「人は一日に何 kg の空気を吸うか」という課題が出たらしい。インターネットで資料を漁るのだという。ちょっと横で煙草を吸いながら見ていると,検索で Yahoo! 知恵袋のページが出て来た。「人は一日に何 kg の空気を吸うか」という問い合わせ。誰かの回答が付いていた。「あ,この Yahoo ID,多分クラスのあの子だ!」と娘。付いた回答をいただこうとしている。

「お前ぇの学校ってその程度か? お前ぇらな,世の中をバカにしてんのか! あの京大ズル受験生とおんなじじゃねぇか! 成人の平均的な肺活量や呼吸回数だとか,WTO のようなしかるべき機関ならデータをもっているはず。空気の単位重量なんて酸素,窒素などの組成から出るはず。そういう前提条件をたてて,それに基づいて計算すりゃいいじゃねぇか!」

こいつら,「インターネットで調べものをする」とは問い合わせサイトに質問を書き込んで回答をいただくことだと思っているのかも知れない。こういう教えてクンたちが会社に入ったら何をやらかすか,そら恐ろしくなる。そのうち,仕事の内容を書き込んでどうすればよいか問い合わせるのが当たり前になるかも知れない。プログラマ,出版文書組版関係では,すでにそういうのもいるらしい。「締め切りで急いでいます,よろしくお願いします」— こういうのをいくつかみたことがある。また「善意ある」人がいるから面白い。
 

* * *

4.29 付記

その後,娘は入手した資料と,生活の特徴的なタイミングで計った自分の呼吸回数とで,前提条件を設定し,それに基づいて「一日に吸う空気の重さ」を 135 kg と算出した。Yahoo! 知恵袋における「善意ある」人の付けた回答は 75 kg。倍近い差がある。どちらが確からしい数値かは判断できないけれども,娘が出した数値のほうが遥かに価値があると私は確信している。どの数値を採るかによって己の何か重大なものを賭けなければならない事情があるとすれば,私は迷わず 135 kg を採用する。条件の設定から自分で検討し,かつ則ったその条件を明示し,それに基づいて算出された数値の重みは,「善意ある」回答の比ではない。Yahoo! 知恵袋の質問者は「善意ある」回答をそのまま引き写し,そして 75 kg を真に受けて,これからの人生を過つ。この質問者のおかげでもしかすると学校で 75 kg が一人歩きするかも知れない。こうして広がる出所も判然としない情報が,他者の人生をも誤らせるかも知れない。