非常事態その2

余震がいまだに続いている。報道は震災一色。被災者の方々は命が救われたその次にやって来る生活不安で疲労感に苛まれはじめている。まだ被災地ではプロフェショナルたちによる被災者救助が最優先事項となっていて,ボランティアたちが活動をはじめるには早すぎる段階のようである。妻の両親が北上に居り,情報がまるで入って来ないので,様子を見に行きたくてしようがないのだが,交通が分断されているだけではなく,一般人が被災地に脚を運ぶのは現時点では救援隊の邪魔にしかならない。

こういうとき一般の人々ができるのは義援金を出すくらいである。今回も私は,小さい額ではあるが,信頼の置ける UFJ 銀行関連の義援金口座に振込した。有名人になると数千万単位で義援金を出す人もいる。飲料メーカー,衣料メーカーなど,災害時になくてはならない飲料,衣料を無償提供したりしている。うちの会社も三億円を寄付したらしい。世界的にも今回の震災は大きな関心を呼び起こしていて,海外から多くの支援がなされている。私も地震直後すぐに Facebook で米国人,ロシア人の友人から気遣いのメッセージをもらった。世の中捨てたものではないと思う。
 

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震災の二次災害ともいえる福島県の原発事故の報道を見ていると,システム障害発生時の雰囲気が痛いほど伝わって来る。一般市民が当事者による説明の仕方次第で技術的問題に起因する不安を極度に煽られる様子も,私は当事者側の論理で理解できるつもりである。「一般人の年間被ばく限度の400倍に匹敵する1時間あたり400ミリシーベルトの放射線量を記録」などとマスコミは書きたてるわけだが,シーベルトだかシューベルトだか,なんの具体的イメージもわかない単位で説明されて,なんかどうも怖いらしいという不安ばかりが増幅されている。400ミリシーベルトの放射線を浴びると何が起こるのかまったく説明していないので,これは何も言っていないのと等しいと受けとめるべきである。「人は1年間に他人から1ハナクソを付けられるという。ところがこのモンスターはなんと400ハナクソを擦り付けてきやがった」— 何が起こっているのかさっぱりわからない。200ハナクソで皮膚が火傷のようにただれる,致死量は300ハナクソだ,のようにでも言ってもらわない限り。

現場の東京電力作業員はそれこそ地獄を見ているはずである。そこから上がって来る情報に基づき広報を行う者も,事実に基づいた上でとにかく顧客=一般市民に不必要な不安を煽らないよう言葉を選んでいる。ところが技術担当からその管理者,さらには政府要人へと,報告がボトムアップされる過程で心配どころの濃淡においてそれぞれで食い違いが出て,なにか説明が一貫しない印象を与え,それが危機的雰囲気のなかで恐ろしい不信感を植え付けてしまっているように見える。官房長官の記者会見はことごとく「心配はない」という主旨なのに,次のタイミングで状況が数段危険なレベルに達しているのが素人目からみても明らかで,市民はまさにそういう不信感に苛まれてしまっている。そしてマスコミがそれを煽るわけである。400ハナクソなんてとんでもない,てなもんや。

私はおそらく現場は,真実を技術者側の論理で理解したら一般人は卒倒してしまうくらい絶体絶命の深刻な状況に,直面しているのだと想像する。でも東京電力の技術者は最悪の事態を回避するだろう。私はなんの根拠もないけれどもそう思っている。外野に煩わされず対策ガンバッテと祈るしかない。
 

おおおお,また揺れ出したぞ。。。
 

※ 2011.3.16 付記

会社のかつて私の部下だった者のなかに,元電力事業部の原子力発電設備設計者がいた。軽薄短小時代の到来,バブル崩壊,原子力発電の危機感から訪れた重電事業の凋落のおかげで,彼は馴れないコンピュータ事業部員に配属替えになったのだった。彼から聞いたところでは,原子力発電所の原子炉はジャンボジェット機がつっこんでも大丈夫なくらい安全性が確保されているそうである。ところが今回の事故は,原子炉そのものの問題というよりは冷却装置が強度の地震で故障したことに起因するものだという。完全ではなかったわけだ。これで原子力発電の安全性神話は崩壊してしまった。