AFC Asian Cup, Qatar 2011 その 6

オーストラリアを倒しましたね。感動しました。李選手の完璧なまでのボレーシュートが決まって,我が家では家族 4 人で未明に大声を上げてハイタッチをした。長友選手のあの思い切り滞空時間の長いセンタリングの間に,「よし」を 3 回くらい発することができた。日本中が固唾を飲んだに違いない瞬間。

選手たちは死闘の最中にあってピッチ上でもがき苦しんでいるんだけど,我々は麦酒片手に胸をドキドキさせるばかりである。この小市民的楽しみこそが堪らない。テレビを観ながら立て続けに麦酒の缶を空け,試合終了時には私はぐでんぐでんになっていた。均衡した試合の緊迫感と酔いで体が縮み上がって,観戦中のわずかの時間に便所で用を足すとき小便が思うところに飛ばず,この小市民オヤジは「おっと,オレのシュートもゴール枠を捉えられん」とまったくバカな独り言を漏らすのであった。と,目敏い娘が騒ぐ —「岡崎って 57 歳なんだって! スゴ!」。テレビ画面の岡崎選手のキャプションにそんな表示があったらしい。

オーストラリアはロングボールをバイタルエリアに蹴り込んでデカい FW がうまく落としてそこを第三の選手が拾ってゴールを奪う — そういうパターンにハマった攻撃をバカ正直に,シンプルにしかけて来る。そして守備は鉄壁。あぁ,こんなんじゃ,そのうちやられるーと不安がつのった。私は,そんな体力温存,ガタイ・パワー頼みの「つまらない」サッカーで勝ち上がって来た豪州チームに対し,日本が華麗な崩しでぜひとも一泡吹かせてほしかった。そしてこの大一番で若い日本チームはそれを果たした。開催国カタールに 10 人で逆転勝利,韓国に精神力で勝った PK 戦,パワーの豪州を無失点で抑えた優勝。面白いエレガントなサッカーをしてアジアの頂点に立ってくれた。いままででいちばんのアジア杯を見させてもらった。

今回の日本の足跡で感動した場面は数知れず。敢えてひとつあげるとすればカタール戦後半終了間際の決勝点のシーンか。遠藤選手が明らかなファールで倒されても,長谷部選手が香川選手に絶妙なスルーパスを通して,香川は香川で猛烈なドリブルでゴール前に切り込んで相手 DF に倒され,流れ出たボールをちゃっかり伊野波選手が流し込んだゴール。普通ならファールをアピールして試合を止めても良さそうであったが,集中力を切らさずどん欲にゴールを奪いに行ったあのスピリットに,なにより感銘を覚えたんである。

MVP は本田選手。まったく異存はないけれども,私個人としては長谷部キャプテンにあげたい。韓国戦を前にした公式会見で彼がなした「日本人としての誇りを賭けて闘う」とのコメントは,ホント胸を熱くしてくれた。W 杯のころはまだやらされ感が漂っていたが,彼は今大会でもう圧しも圧されぬ立派なキャプテンに変貌していた。これが今回の最高の結果の主たる要因じゃなかろうか。

今日,昼くらいに起きて来て,朝日朝刊一面のエジプト騒擾を報ずる記事を読む。カタールのすぐ近くでの出来事。チュニジア政権の崩壊。ロシアでのテロ事件の続報。我々がサッカーに酔いしれている間にも地球は回っているわけである。今日は,久しぶりの二日酔いと日本勝利の余韻と世界の出来事の数奇さに苦しみ,便所通いの休日とあいなりました。