藤田眞作先生の新刊マクロ本

藤田眞作先生の『LaTeX2e マクロ作法』が出た。私は LaTeX の魅力に憑かれたこの 15 年,藤田先生の『LaTeX マクロの八衢(やちまた)』,『LaTeX 本作りの八衢』に大いにお世話になって来た。これらは現在の LaTeX 3 よりも古い世代の LaTeX 2.09 に準拠しており,少し古色蒼然としたきらいがあり,すでに絶版となっていた。『LaTeX2e マクロ作法』は,これら『八衢』シリーズを襲う,文字通り新しい LaTeX2e に基づく待望の LaTeX マクロ本である。

私は本屋でざっと通読したレベルであるが,二冊の『八衢』で述べられていた内容をうまく統合して,より LaTeX 流マクロ作法に重点を置いた(『八衢』はどちらかというと TeX 流ではないだろうか)わかり易い解説だと思った。総 652 頁という大著である。LaTeX マクロを究めたい人で,『八衢』シリーズを持っていない方にぜひお勧めする。

『八衢』シリーズは確かに見た目に古びてしまったけれども,そもそも TeX の核は LaTeX2e になろうとも変わることがないので,記述は本質的に現在でも充分通用する。おまけに旧版の版形は新版の B5 変形版と比較すると A5 版であって,よりコンパクトなところが私の好みに合っていた。最新 LaTeX に照らして新参者が『八衢』シリーズに違和感を覚えるとしたら,\documentclass となることころが \documentstyle となっていることくらいではないだろうか。文字コードを直接指定するマクロ例があるけれども,これも upLaTeX では誤動作を引き起こしはしても(upTeX は内部 Unicode 化がなされているので),既存資産の継承にこだわって開発されている ptexlive なら,問題なく動作するはずである。そういうこともあり,私は新刊本をすぐ入手したいとはあんまり思っていない。後継の書籍がやっと出て,新しい読者にとって有益であることを確信するところである。

藤田先生の著書の特長は,もちろん何よりも,採り上げられたテーマの的確さ(超絶技巧よりも,出版文化に根ざした「使える」技術を目指しているところ)と,示された LaTeX マクロ・コード作法の巧とにある。でも,それだけではなくて,日本語の文章がじつにこなれていて,そこらへんのコンピュータ書籍を読んでいて感ずる理科系的独りよがりがまったくないところも,大いなる美点なのである。「年の功」などという失礼を口にしたくはないけれども,藤田先生の文章には若い技術者にない嗜みがある。

LaTeX のマクロを究めたい人に。私はロシアの LaTeX 関係の書籍もチェックしているけれども,この手の LaTeX マクロ本が脈々と出版される点で,日本の LaTeX 文化のレベルの高さを思い知るのである。

もう古書でしか手に入らないかと思うが,『八衢』シリーズのアマゾンリンクも設置しておく。

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藤田 眞作
アジソンウェスレイパブリッシャーズジャパン
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藤田 眞作
アジソンウェスレイパブリッシャーズジャパン