事業仕分けもいい加減・SQLite

会社でも政府予算の動向把握は欠かせない。民主党政権の特色のひとつになった事業仕分けの結果も大きな関心を呼ぶ。なにせ時間と労力を掛けて必死こいて担当者が提案していたシステム化が,あの内実も知らない素人仕分け人のつっこみに対して役人がうまく対処できなかったために,一瞬のうちに「廃止,凍結」という話になってしまう。世の官庁関係の仕事をしている人で,これまでの苦労があの数十分の議論のおかげで水泡に帰してしまったような人には,あの仕分け人を後ろからブスリとやりたくなった奴もいるんじゃなかろうか。

ま,国家事業の無駄排除のために侃々諤々議論したうえで,「無駄」と切り捨てること自体は悪いことではない。それで国税を国民生活全体にとってより有益な事業に振り向けることになるのなら,誰だって文句は言えない。もともと事業仕分けは,国税の使途において長かった自民党政権下で既得権益と化した事業,あるいは「天下り」官僚のための有名無実の事業に対する政治による裁断ではなかったか,と私は理解している。しかしいまや,ニュースでも報道されるように,すでに民主党政権となり彼ら自身が予算化したも同然の事業に,尚もつっこみを入れなければ気が済まないのは,この劇場会議,そもそも予算策定の過程に民主党がまったくコミットできていないという恥ずかしい証拠になっているだけじゃなかろうか。

10 月末に行われた事業仕分け第三弾,特別会計の個別 48 事業の仕分け結果の資料を見た。特別会計とは,受益と負担の関係を明確にするために一般会計と区別して経理を行うものである。年金,労働保険など歳入に応じた行政の歳出で成り立っているような事業がこれに相当する。ま,事業はさすがにいろいろあるんだけど,このところ収賄事件で注目していた特許特別会計に私は目がいった。特許庁関係が特別会計になっているのは,ほぼ企業から得られる特許出願料・登録料という歳入だけで審査・審判・公報活動を行う財政構造・予算で成り立っているからである。要するに自分で稼いだカネで仕事をして日本国の産業,ひいては国民に成果を還元しているわけである。

特許特別会計の平成 13 年度報告書が,情報公開法に基づき経産省サイトで閲覧できるようになっている。これを見ると,わが国の特許事業は 1,850 億円の歳入に対して歳出がなんと 950 億円であり,次年度繰越金が 900 億円近くもある。普通の会社なら利益率 100% に近い超優良企業である。それなら出願料を下げて出願人企業にもう少し還元したらどうかとも思う。しかしその一方で,なんのために存在しているのかもよくわからない政府外郭団体が無駄に税金を垂れ流す「天下り事業」と比べれば,稼いだ金の範囲で国益を創出している点で,遥かに健全な国家事業であるとも言える。

ところが,事業仕分け第三弾の結論を見ると,特許電子図書館事業は「将来的に廃止」,知的財産権教育事業は「文科省の仕事であり,廃止」,とにべもない。前者は,特許庁の審査用庁内検索システムが将来的に一般にも公開されるという背景を踏まえるとまだ納得できるのだが,後者は,じゃあ文科省にきちんと予算化させるところまでフォローしろよと言いたくなる。技術的,組織的に文科省ができないから経産省・特許庁が音頭取りをしていることをまったく理解していない。なのに,やめろと言うだけでこうしたらどうかという前向きな意見がまるでない。また,「アンタじゃなく文科省がやるべき,アンタはそれを手伝いなさい」などと省庁の縦割り構造を無視した結論を出すのは,現実的な観点において無責任ではなかろうか。

要するに,いまの事業仕分けはアラ探しばかりをする素人の無責任なつっこみにしか見えないのである。国益を考えた建設的意見がまるでない。そう考えるのは私だけではないと思う。だいたい,特別会計のような歳入と歳出の構造が明らかな国家事業にまで素人が首を突っ込むんじゃねぇ。技術立国の根本政策の実行官庁である特許庁の事業を,しかも健全な税金運用をしている特許事業を,井戸端会議的に引っ掻き回すんじゃねぇ。私はアタマに来た。私は当初の事業仕分けに対しては「政治主導」の端的な姿としてかなり好感を抱いていたが,今回の結果を見る限り,初心を忘れた素人つっこみ大会にしか思われなくなってしまった。事業仕分けはいまやただの劇場政治である。仕分ける前にきちんと予算化の段階でコミットすべきである。それはできるはずなんじゃないんでしょうか,政治主導というのだから。
 

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最近,プライベートで漢詩を研究していて,misima の機能に漢詩規則分析を入れたいと思うようになった。平仄の妥当性の検証,孤平や下三連等の禁止事項のチェック,平仄に適合する詩語の検索など,漢詩を作りたいと思う人・漢詩の分析をしたい人のための支援機能である。misima の辞書を作りながら四声データも集めたので,まずはこれをもとにした平仄チェック,禁止事項チェックを行って診断結果を出力するとともに,すでにある機能と連携して \CID 形式の正字体に自動変換し,返り点命令変換を含めて,LaTeX 形式で出力するくらいはできそうである。

漢字・詩語データベースをどうするか悩んで,これまでと同じように DBM にデータを格納し Perl の連想配列で回すのがいちばんラクだと考えたのだけれども,検索機能ものちのち入れるんなら,ちょっと大げさだけど RDB にしようと思った。そこで手軽な SQLite を少し勉強することにした。SQLite は,RDBMS(Relational Data Base Management System)サーバなしにライブラリだけで RDB を使う枠組みを特徴とし,ユーザ管理機能も高度なトリガー機能もないけれどもシンプルで軽い,パブリックドメインの RDB ソフトウェアである。Safari や Firefox が SQLite でブックマークなどを管理していることをいまさらながら知った。

会社の帰り,いつも行く虎ノ門の書店『書原』で本を漁った(この本屋,人文社会系の品揃えはなかなかである一方,コンピュータ関係はまったくダメである。またコミック,マンガ雑誌などまったく置いていない。よってコンビニ的風景を免れている。そのポリシーこそが私の贔屓にする所以でもある)が,SQLite の本は見当たらなかった。今日はいつもと違う道で新橋まで行こうか,とぶらぶら霞ヶ関を歩いた。日比谷公園にでも寄るか,ともふと思ったが時間が遅いのでこれはやめ。財務省と文科省の間の小道を抜け,桜田通り(国道 1 号線)を渡って霞ヶ関郵便局の辺りまで来ると,文教堂書店があった。小さい本屋だけど覗いてみたら,技術評論社刊行の『SQLite ポケットリファレンス』があった。このシリーズについてこれまで私は Perl, JavaScript, SQL, LaTeX に関する本を重宝していたので,迷わずこれをゲットした。DML の説明はあらかた普通の SQL 本と変わりがない。DB 運用に関る DDL, 端末コマンド仕様を帰りの電車で読んでイメージを理解した。
 

 

2011.1.5 付記

その後,漢詩平仄音韻分析プログラムをリリースした。SQLite3 を使った Java Servlet である。漢詩に興味のある方は『misima 漢詩平仄音韻分析(Servlet版)』をお試しください。