今日,妻と二人で上野・東京藝術大学奏楽堂でコンサートを聴いて来た。この演奏会は,娘とシャガール展に藝大美術館を訪れたとき,目を付けたのだった。全席自由席ということで開場時刻の少し前に入口に並んだ。奏楽堂ホールの立派さに驚愕した。よい席がとれた。今日の演奏会には,たくさんの視覚障害者の方たちが招待されていて,演奏に先立って作品概要や演奏の特徴などの説明がなされた。点字による資料も配られているようだった。
演目は,武満徹作曲『十一月の霧と菊の彼方から』,『妖精の距離』,『揺れる鏡の夜明け』,レスピーギ作曲『夕暮 Il Tramonto』,プーランク作曲『ヴァイオリン・ソナタ』,シェーンベルク作曲『弦楽六重奏曲 — 浄夜』。清水高師,ピエール・アモワイヤル,漆原朝子(Vln),川崎和憲,大野かおる(Vla),山崎伸子(Vlc)ほか総勢 16 名の出演者が集うものだった。室内楽が好きなクラシックファンには,出演者の名を見て演奏会の質の確かさがわかると思う。
『音楽に息づく詩』という題名の通り,演奏の合間に,大岡信やリヒャルト・デーメルの詩が朗読された。武満のヴァイオリン曲集とシェーンベルクの弦楽六重奏曲に私はいたく感銘を受けた。『浄夜』は弦楽オーケストラ版のほうが人気が高いけれども,音像のシャープさ,音響の緊密さで,私はやっぱりオリジナルの弦楽六重奏版が好みである。2000 円のチケットでこういう渋いコンサートが聴けるなら,いくらでも足を運びたくなる。中途半端な外タレなんかより日本人演奏家のほうが,チケット代が安価であるにもかかわらず,遥かに質の高い演奏を聴かせてくれる。妻はレスピーギの室内歌曲が気に入ったようだった。私はマグダレーナ・コジェナーのメゾ・ソプラノでこの曲の CD を持っていた。iPod にでも入れて上げよう。
小春日和とも言える今日,上野公園は銀杏が色づいて綺麗だった。藝大のキャンパス内,奏楽堂への小道にも落ち葉が一面に散り敷いて,銀杏の匂いが鼻を突いた。
「対極にある星と星の緊張が
この一本の木を躍らせるのよ」
十一月の霧と菊の彼方から来た
女が言ふ。
武満徹の上記ヴァイオリン曲の極上の演奏 CD はこれ。今日出演したヴァイオリニスト・清水高師が同じく『十一月の...』を演奏している。アルディッティ弦楽四重奏団による『A Way A Lone』も出色の演奏である。
L. アンドラーデ (Vla)
R. デ・サラム,上村昇一 (Vlc)
藤井一興,小賀野久美 (Pf)
フォンテック (2005-04-21)
レスピーギの『夕暮』を収録している数少ない録音。マグダレーナ・コジェナーのメゾ・ソプラノで。
ユニバーサル ミュージック クラシック (2004-05-26)
シェーンベルクの『浄夜』弦楽六重奏版については,巌本真理弦楽四重奏団の遺産が最高の名演だと私は思っている。この CD については前にも言及したような気がするが,改めてリンクを付けておく。TOWER RECORDS による企画盤なので,もう入手が簡単ではないかも知れない。
Ich fühle luft von anderem planeten,...
私はほかの遊星からの大気を感じる...
江戸純子 (Vla-2), 藤田隆雄 (Vlc-2), 長野羊奈子 (Sop)
TOWER RECORDS EMI CLASSIC (2009-03-04)