日電のスパコン撤退に絡んで,『理化学研究所,スパコン撤退のNECに損賠』なるニュースをみた。儲からない製品からメーカーが撤退するのに,損害賠償もクソもないんではないでしょうか? メーカーはシステム開発の途上では顧客の奴隷に近い体たらくであるが,いざ「法的手段」に臨むとなると,契約において絶対負けない条項を固めているのが普通である。NEC は裁判では負けないと思う。
電機メーカーに勤めていないとわからないだろうけれど,スーパーコンピュータの開発でメーカーは大赤字なのである。かつては国策だったこともあり,日本のコンピュータメーカーはベクトル演算プロセッサや,超高性能メモリ,最適化 FORTRAN の開発にしのぎを削った。私が入社したころは,自社製スパコンが世界最高性能であることに大いなる誇りを感じたものである。ところが,研究開発に金は掛かるは,お客はケチだはで,おまけに長期化した平成不況の過程で,いくら日本の電子立国を背負っているという気概があろうと,日電,日立,富士通といえども,食えないんじゃその事業も活気を失って当然である。長続きするはずがない。
NEC のスパコン撤退は,大型汎用機からの撤退と同様,経営資源の選択と集中という考え方に依る以上,当然の選択なのである。日立,富士通という日本のスパコンメーカーの雄は依然開発を継続しているわけであるが,いまや「計算能力世界一」なんて目指してはいない。性能においてもはや米国クレイなどに圧倒的に水を空けられてしまっていて,いま日本のスパコンメーカーが自社の「売り」にしているのは,低コストと大幅な消費電力低減なのである。要するに性能が求められているところでエコを目指しているんである。悲しいことに,計算能力というだけの観点では中国のメーカーにも叶わない状況になっているのである。
これをどうみるか。ハイテク分野でも中国に勝てないのかよ,と思う人もいるかも知れない。国がちゃんと予算をつけないから中国なんかに負けるんだ,だって? 世の中というものは,モノ作りをする人たちよりも,銀行や証券会社などの金で金を生む人たちのほうに有利にできている。スパコンの開発者は銀行員の半分の給料しかもらっていない。自分でモノを作り出す人たちはエラい苦労をしても,それに見合った社会価値がえられないばかりか,おまけに金融経済がコケたらコケたでいよいよ給料を減らされ,元気を殺がれているのだ。そんな状況なら,国家としては,日本の開発者を鞭打って努力を強いるよりも,金融で生まれたその金で必要なものを外国から買って来たほうが合理的なのは,この時代当たり前ではないか。
私自身は,本質的でないことでトップを目指すのはもうやめてもよいという立場である。スーパーコンピュータの用途とはなにか。超越数の桁数などの科学技術計算であり,ミサイルの弾道計算であり,気象予測分析のための偏微分方程式計算であり,....,いずれにせよ,特殊中の特殊の分野である。一方で,日本のメーカーも,軍事関係は別として,天気予報などの社会のインフラとして必要なところに,必要な性能を備えたスパコンを供給するくらいの技術体力は有している。ヒトゲノムの解析にも国産スパコンが貢献したはずだ。でも,もう国産で世界最高性能の製品すべてを賄おうなんて風潮は時代遅れである。逆に国力を疲弊させる。コンピュータだって,買い集めて来てソリューションで勝負する時代になって久しいのである。
米国と中国は日本とは桁違いの金をスパコンに投資している。それは軍事目的である。とくに中国は米国製計算機で ICBM 弾道計算をするわけにいかないから(そのためには米国人技術者が必要になるから),独自開発に必死なのだ。高性能が実現できて当たり前である。でも,それに見合った利益が米・中の一般国民生活に還元されているとはとても思われない。
なんでこんなことをくどくど書いているのか。スパコンで世界に大負けしたわが国の不甲斐なさがやっぱり悔しいからである。でも考えてみればそれでよい,ということ。