琴光喜に端を発する野球賭博問題で相撲界全体に激震が走っている。一人二人ならともかく親方を含んで,いったい何人が関与しているのかわからない状況である。今年の一月,国技館でこの目でその素晴らしい投げを観せてもらった豊ノ島の名前もあがっていた。
関取は,ほとんど相撲とそのための肉体作りだけで生活がなりたっている,つぶしのきかない,そういうプロフェショナル中のプロフェショナルである。てめぇでてめぇの尻すら拭けないくらいの徹底ぶりなのである。あの図体じゃ,お忍びで女遊びもできやしない。勝負事の好きな人が多いらしい。だから,野球賭博くらいで彼らを責め立てる気に,私にはまったくなれない。別にいいじゃねえか。麻雀で金を賭けないやつがいるだろうか? 官僚のお歴々も麻雀卓を囲んで一晩でウン十万負けた,などと聞こえて来ても,世間はなんとも思わないではないか。サッカー W 杯でトトカルチョをやったことのないサッカー・ファンがどこにいる? なんで野球で賭けをやったことに目クジラをたてるのだろうか。ああ,プロフェショナルたちがハナクソのような無名の人たち(マスコミ,テレビばかり観ている人たち)に,よってたかって辱められるこの不幸な国,不幸な時代。
この問題が仮に野球賭博そのもので騒がれているとしたら,お笑い以外の何ものでもない。この問題意識は,偽善的清潔漢・マスコミが覚醒剤市場の巨悪にはまったく踏み込まずにノリピーなどの芸能人個人に焦点をあてて面白がっていたのと,まったく同じ構造である。問題は,賭博行為そのものではなく,この賭博ではどうやらヤクザが胴元になっているらしく,相撲界のヤクザとの結びつきのあり方にこそあるのではないか。琴光喜を脅迫したとされるヤクザは,上顧客をハメたことになって,どうだろう,ヤキを入れられるんではないだろうか。プロ・スポーツ界,芸能界はヤクザと常に隣り合わせである。
ま,確かに賭博は法律違反です。やっちゃいけません。運が悪かったと思って,ヤクザといっしょに,相撲界みんなでブタ箱にお入りください。
P.S.
昔,ジャニーズの未成年タレントが酒盛りをしたとかで,週刊誌にスッパ抜かれ,新聞にデカデカと書き立てられるや,警察が動きだしたという事件があった。でも,未成年者の酒盛りなんてそのへんにごろごろ転がっていて,この事件が報じられたからといって,「法律」に訴えてでも未成年者の飲酒を取り締まるべきだという人はいなかったのではないだろうか。法律でやっちゃいけないことが,世間では大目に見られ,不問に付されることがある。法律で禁止されていない,やっても罰せられないことが,世間から手痛い報いを受けることがある。これこそ「法」の原理というものだろう。法律違反が「堂々と」まかり通ると警察は法治国家理念に照らして動かざるをえない。警察は一般に「法律」とその運用との間でうまく折り合いをつけている。
ところが,今回の野球賭博事件がそれ自体で世間から問題視されているとしたら,いまの日本は「法」と「法律」の区別ができない社会になったという徴候ではないだろうか。そのうち有名人が賭け麻雀容疑で逮捕される時代が来るかも。怖。