天声人語のエリート主義

先日,谷亮子参院選出馬について書いた。その元ネタにしたテレビ朝日番組はスーパーJチャンネルである。いま少し冷静に考えると,もしかすると「ママでもギイン」などとホザいたのは,チャンネルを適当に変えるなかで目にした,別のテレビ局のキャスターだったかも知れない。また,「解説委員」と私が思ったのはそうではなく,ジャーナリストの大谷昭宏氏である。いい加減なことを書きました,訂正します。でも,翌日 12 日の朝日新聞朝刊の「天声人語」は,この大谷昭宏氏とまったく同じ意見を表明していた。

天声人語曰く,「しかし,今ほど,政治家にプロの意識と手腕が必要な時はない。国を立て直す情熱を政策に練り上げ,国民に説く知と技である。さわやかな笑顔はオマケでいい」。「さわやかな笑顔」=ヤワラちゃんの人気には,「プロの意識と手腕」,「知と技」は縁もゆかりもないと断言しているのである。まあそれはよいとして,なぜ政治に「プロの意識と手腕」が今必要なのか。じゃあそれを持つような人は誰なんでしょうか?

「プロの意識と手腕」,「知と技」— そんな空想的なことなら私にだって言える。サッカー日本代表選出が難しいのは「得点力が高く,守備の完璧な選手」などを注文してもなんの現実性もないからである。現実にいる選手のなかからのベストセレクションを結果で証明しなければならないからである。こんなことは,誰でも知っている。朝日の注文は,サッカー日本代表に必要なのはクリスチアーノ・ロナウドのような選手である,というのとなんら変わりがない。なのに,このアホみたいな空想的政治論議の一方で谷亮子参院選出馬をアプリオリに腐す,その傲慢さが頭に来るのである。「プロの意識と手腕」を持つ者 — 朝日が言いたいのは,その言説に少しでも現実性(想定選手)を汲み取るとすれば,それはつまり,算数・国語・理科・社会ができる東大卒の官僚だということではないだろうか。エリート主義的朝日らしい見解だと納得が行った。

また,天声人語曰く,「自民を見限り,民主に裏切られた数千万人が票を握りしめてさまよう夏」。数千万人が「民主に裏切られた」と断言するのは具体的にどの事案・法案を指しているのでしょうか? 子供手当,外国人参政権,公務員法改正,これらはマニフェストから伺われる法案であって,はしごを外したわけではない。事業仕分けは国税の使い方への国民的関心を喚起した素晴らしい試みである。「裏切り」。小沢のカネ問題と普天間問題くらいしか思い当たる節がない。

でも,それは「裏切り」だろうか? 「裏切り」とは,基本的約束・期待をはぐらかすということである。小沢さんの疑惑は選挙前から存在した。ということは有権者にとって小沢の疑惑は想定の範囲内の話なのである。となると「期待」とは,朝日にとって,小沢が逮捕されることのようである。確かにその期待は「裏切られ」ている。普天間問題にしたって,衆院選後,民主党政権になって吹き出した事案であって,なにより「裏切り」と感じているのは「最低でも県外移設」に一縷の望みを抱いた他ならぬ沖縄県民のみであって,日本国民の大勢(「数千万人」マイナス百万人程度?)はそれまで普天間事案なんて何の拘りもなかった。いま現在の報道というと,5 月末の首相の約束がどうのこうのという解釈と,「首相たるお方の軽口」批判に大童なだけの,情けない議論をしているだけではないか。心配しなくても鳩山さんは約束通り「また先送り」という決着をつけてくれるはずである。朝日は「数千万人」が「裏切られた」などとどうして膨らまし粉をまぶすのか。

これほどアホらしいと思いつつ,朝日新聞を購読しているこの私。お嗤いください。この「数千万人」の有権者は,朝日のエリート主義(「票を握りしめてさまよう」などと徹底的に有権者を蔑んで顧みないエリート主義)とは異なる判断をする,と私は確信している。先日,4 月 18 日に行われた帯広市長選挙で,民主党推薦の米沢さんが僅差ながら当選を果たした。これは,あの「犯罪者」・石川知裕衆院議員が米沢さんの応援をした選挙の結果である。朝日的偽善(朝日だけではないが)が石川・小沢バッシングをするなか,帯広市民は朝日的エリートバカよりもよっぽど正鵠を射た判断をしたのだ,ということを私は思い知らされたのである。

私は民主党を擁護しているのではない。もともと私は民主党について心情的に旧自民党よりも嫌いなんである(鳩山,小沢,仙谷,北澤など一部の肚の座った人以外は,きれいごとの好きな,マスコミ報道に戦々恐々とする優等生ばかりだからである。一方今の自民党はというと,私の好き嫌いを超越し,だだの政治的「ゴミ」になってしまった)。でも,雇用問題(派遣社員,フリーター,ニート問題含む)や少子化問題など,本当に大事だと私が思う焦眉の課題について,「次の世代」をしっかりサポートする政策を現実的に打ち出せそうなのは,いまのところ民主党しかいないのである。外交でも,いままでの対米従属(「美しい日本」)を脱して中国・ロシア・韓国・北朝鮮ときっちり向き合うことで,北方領土問題,北朝鮮拉致問題,エネルギー問題において,新しいブレークスルーを齎す可能性を秘めているのも,民主党しかいないのである。なのに,そういう大事な大事な問題が普天間やら政治資金などのハナクソのような「エピソード」ばかりで曇らされている。政治家の時間が浪費させられている。いまだに嫌中・嫌韓・嫌露の風潮が強い。こんな状況を招いた張本人は誰なのか。新聞,テレビじゃないか。