サッカー W 杯代表が決定して,直前の期待感がいや増しに高まって来た。こういう楽しみを味わうことが出来るようになったことの仕合わせ。1993 年のドーハの悲劇も,1997 年のジョホールバルの歓喜もテレビに齧り付いて観た私は,日本が 4 大会連続出場を果たしたことをなにより凄いことだと改めて思う。
ところが,サッカーファンの W 杯への期待度がかつてないくらい低いという記事をよく目にする。岡田監督への批判が凄まじい。今日もサポートメンバー 4 人が発表されたが,その人選に対しネットの意見は否定的なものばかりである。やることなすこと腐されているという感じ。カズをなぜ呼ばないのか,などというほとんど自虐的にしか聞こえない声が結構多いのに驚く。どうも,すでに W 杯は日本のサッカーファンにとっては終わったも同然のようである。でも,勝負はやってみないとわからないわけで,日本チームにだって一縷の望みはあるわけで。これじゃ,岡田監督,選手たちがあまりに可哀相じゃないか。
負の期待感に覆われたこの雰囲気。ならば,自虐ネタで楽しむのも面白いのではないだろうか。自虐的予想で現実を見つめておくことにより,あらかじめ 3 戦全敗時の落胆のハードルを思いっきり低くしておく。これは精神衛生上,大人の振舞いではなかろうか。そうすると,もしも,もしもですよ,仮に,神風でも吹いて,我らが代表が 1 勝でもしてくれようものなら,その喜びも一入じゃあありませんか。
守備にミスの多い日本チーム。どうなるんでしょうか......
カメルーン初戦。日本は大舞台の割に落ち着いた無難な立ち上がりを見せたが,前半 30 分,ロングボールを入れられて闘莉王がエトーと競り合って抜かれそうになり,エキサイトしてついついケリを入れてしまう。一発退場。ブブセラの咆哮が一気に高まる。後半開始早々,ゴール前のせめぎ合いで内田が相手の足を引っかけてファウルを取られてしまう。その 10 分後,今度は長友がペナルティエリアでハンドを献上してしまう。こうしてなんとペナルティキックで 3 点を失う。結局,日本は初戦を 5--0 で惨敗してしまう。岡田監督:「ちょっと選手に硬さがあった。高地対策はしていたが,南アフリカはいま冬だということを忘れていた」。日本国内では「いまからでも監督を代えろ」との大合唱が起こる。
第 2 戦。対戦相手は強豪国オランダ。なぜかここに来て,スリーバック布陣のスターティングメンバー。前半 20 分,岡崎が倒され,ゴール中央 25 メートル付近でフリーキックのチャンス! 中村俊輔,本田圭祐,遠藤保仁が厳しい表情で話をしている。いきなり中村と本田がジャンケンをはじめる。なぜかアイコでしょが続く。ホイッスルが鳴るので,しようがないなあと遠藤がコロコロとフリーキックを蹴ると,なんとオランダのキーパーが — まるでウイイレかと思うばかりに — 逆を突かれ,ゴール。日本先制! 岡田監督は大喜び。しかし,それも束の間,わずか 3 分後,ロッベンに稲本,中澤,岩政がクルクルとかわされ,当たってもいないのに駒野が倒れるスキに(ロッベンの鼻息で吹っ飛ばされたのか?),ゴール右に同点打を突き刺されてしまう。ここでああ,またかという白けた空気のチームに漂うのが,テレビ画面から地球の裏側にいる日本サポーターにまでありありと感知される。後半に入り,スピードの落ちた日本はさらに 3 失点。うち 1 点は,DF がボールを回す一瞬の隙を突かれて横パスをインターセプトされたものだった。4--1 で完敗。結果は下馬評通り。岡田監督の談話:「先制した時点でスリーバックが生きて来ると思ったが,相手のフィジカルの強さは予想以上だった。ポゼッションはウチが 7 割くらいあった。一瞬を突かれた感じ。惜しかった」。2 戦連敗でグループリーグ突破は不可能となった。日本ではその数時間後,満員電車のサラリーマンの手にある東スポ 1 面には,次期代表監督騒ぎが伝えられる。怖い顔をした犬飼会長の写真の下には「もっとブーイングをしてほしい」とのキャプションが読める。なぜかマツコ・デラックスの写真もその横にあるが,コメントは残念ながら読み取れない。サラリーマンはというと,桃色ページを見ている。
第 3 戦。これまで 1 勝 1 敗,勝てばグループリーグ突破が決まるデンマークは,主力をベンチスタートで温存するという,日本を舐めきったスターティングメンバー。しかし,日本は開始早々からデンマークに攻めまくられ,防戦一方になる。第 2 戦までノーゴールだった岡崎のワントップに代えて大久保,玉田,矢野のスリートップで攻撃的布陣をとった日本は,意外にも矢野の体を張った守備などが光り,失点を免れて前半を終了。後半,焦ったデンマークは主力を投入。日本はベントナーとトマソンのマークに集中し過ぎたためか,後半 40 分,コーナーキックからフリーになった若い MF エリクセンに頭で押し込まれ先制されてしまう。残り 3 分,岡田監督は矢野に代えて期待のフォワード・森本を投入。日本に攻撃のリズムが出はじめる。ロスタイムに入り日本は,足の止りかけたデンマークに対し波状攻撃をしかけるが,アッガー,キアルの鉄壁センターバックにことごとく跳ね返されてしまう。張り切った森本は,DF ではなくキーパーを背負ってしまい,中村憲剛の絶妙なスルーパスはオフサイドの判定。手元の時計・ロスタイム残り 20 秒のところで,大久保がゴール 20 メートルの絶好の位置でファウルを得る。中村俊輔 — 第 2 戦のあのジャンケンで勝利を収めていたのだ — の黄金の左足に期待がかかる。はるばる日本から危険を承知でやって来たサポーターは,アフリカ人に対抗しようと日本から持ち込んだホラを吹きまくる。キーパー楢崎も,攻撃に参加しようとゴールを放り出して上がって来た。俊輔のフリーキックやいかに。
試合終了後,テレビ局にゲストで呼ばれていたイビチャ・オシム前日本代表監督がひとこと:「人生にも,サッカーにも,負け続けることがある」。アナウンサーは「このたびはこんな真夜中にお越しいただき,ありがとうございました」と丁重に感謝のことばを述べる。「いやいや,オーストリアにいると思えば普通の時間,時差ボケにならずにすんだ。おまけに日本は南アフリカと違って夏だ。それより,岡田監督の健康が心配」とオシム。画面には本田圭祐選手がタオルをかぶって横たわっている姿が映し出されている。なぜか両腕に高級腕時計を嵌めている。そこに,現地アナ(残念ながら男子アナ)からデンマーク監督の談話が伝えられる:「日本は凄い(fucking)チームだ。フォワードの守備能力,ディフェンダーの攻撃能力に驚いた。東洋の神秘を改めて思い知らされた」。どうもこのアナウンサーは,これを日本への賞讃だと勘違いしたらしい。デンマーク監督はこれ以外のこともたくさんしゃべったに違いないが,ここだけが紹介された。ちょうどそのころ,2ちゃんねるでは「W 杯戦犯を叩こうスレ」,「予選突破韓国・北朝鮮は審判を買収スレ」が真夜中にもかかわらず大盛況になり,とうとうサーバーがダウンしてしまう。
疲れました。なお,本サイトの記述はフィクションであり,実在する個人,団体等とは一切関係ありません。為念。とはいえ「人生にも,サッカーにも,棚からぼた餅がある」と信じて日本代表を応援したい。頼むぞー。
※付記
日本チームの最大の問題は,点取屋がいないとかそういう技術的な点ではないと思う。11 人のなかにリーダー的存在がまったくおらず,「チーム」をなしていないところではないだろうか。カズを呼べなどと愚かな注文をするのは,この意味で少し理解できる。でもリーダーとは,ピッチの外にいてはダメで,戦う過程でレギュラーのなかから選手の暗黙の総意によって自然と選ばれるべきものである。「カズ,川口,もしくは中澤,キャプテンよろしく」なんて,バカではないだろうか(そういう「頼まれ」リーダーは責任だけを負わされる不幸な存在である)。中村俊や遠藤,中澤あたりが本来ならこの役割を果たさないといけないのに,彼らはどうも自分のプレーだけを大事にする「性格」であって,リーダーの素質がまったくない。だから,わずか 1 失点でチームがガタガタになってしまうのだ。これが日本チームの悲劇ではないだろうか。宮本のような,ヘタクソだがキャプテンシーを発揮する選手が選ばれたジーコ監督の一時期,日本は素晴らしい実績を残したではないか。岡田監督の責任があるとしたら,この点だと思う。
あまりに悲観的な物語に,かつんと来た方,じつは私はあなたの側にいます。いまの可哀相な期待感のなかで「ベストフォー」という目標に,ファンは「ちょっとここだけにしておいて」風の白けを感じている人が多い(グループリーグのベストフォーということか? なんていう人もいる)。また,言葉尻を捉えられて,いまや「ハエ・ジャパン」とまで蔑まれている。ちょっと酷くね? ところが,本田圭祐選手はそこへもってきて「優勝をめざす」とぶち上げた。やっぱりアスリートはこうでなくちゃ。私はたとえ上のような事態になったとしても,W 杯日本代表チームを尊敬いたします。