卒業式・短冊・高校無償化問題

昨日は娘の中学校の卒業式だった。娘にとってバレーボール,生徒会,受験と充実した三年間だった。息子もテニスや体育委員会で心身ともに鍛えられた。もう入学予定の大学のテニス部からの誘いで合宿に参加している。

二人とも,まあ,お勉強はほどほどでも,エネルギーを外に発散してゆく行動的タイプに育った。親としては,よかったと思う。「いい学校を出た」だけで戦略的思考力も行動力も責任感もない優等生は,これからは淘汰されてしまう時代のようである。現に私の会社でも,新人採用について回覧されて来るリストを見ると,二流私大の新卒予定学生が第三次面接に進んでいる一方で,東大,京大など一流大学(とくに国立大学)の学生がボロボロと早々に落とされている。

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高名な俳人・書家の宇佐美魚目先生から,素晴らしい短冊を二枚いただいた。うむ,ウチにはもったいない。妻が句集の編集を担当した縁である。先日も高雅な色紙を書いてもらったばかりなのに。きりりとした俳句を詠む書の達人 — 私にとって羨望のまとである。

白髪の夏百まりの鯉を呼び
今ゆきし霰よ虚子の華奢な手よ
                    魚目

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昨日の朝日新聞朝刊一面は『朝鮮学校無償化除外へ』の記事だった。「鳩山内閣は11日,4月に実施予定の『高校無償化』をめぐり,朝鮮学校を制度の対象から除外する方針を固めた」という。理由は,拉致問題をめぐる敵対国・北朝鮮の息がかかっているかも知れない学校を現時点で無償化対象にはすべきでない,ということらしい。

たしかに朝鮮学校は教室にキム父子の写真を堂々と飾っており,日本人からすれば北朝鮮の洗脳ぶりを見せつけられる感じが否めない。「お前等日本に住んでいながらふざけんじゃねー,そんなにキム将軍様が好きならとっとと北朝鮮に帰りやがれ」と正直言いたくもなる。でも,だからといってそれで朝鮮学校が法制度的に差別される理由になるというのは,私には賛成できない。よく考えてみると,朝鮮学校でキム父子の写真を掲げるのは戦前の日本で天皇・皇后両陛下の御真影を拝していたのとまったく同じである。つまり当時の日本人と同様,いくら世界から狂っているようにみえようと,朝鮮学校に通う生徒とその家族の人達自体は,実際は普通の善良な市民であって,公共の福祉に悖る反社会的活動をしているわけではないのである。オウム真理教団のように集団的破壊行為をしているわけではないのだ。その限りにおいて,彼らにも日本に在住する市民として思想,信条の自由がある。そしてその思想・信条で制度的に差別されるべきではない。

外国人地方参政権付与の問題もそうだけど,基本的には自由と平等の原理に基づいて行政を行うべきだと思う。もちろん,そのためには税金等の制度においても,平等にすべきである。税制において在日朝鮮人に対してへんに「優遇」したりして来たおかげで,いつまでたっても「差別」がなくならない。だから,参政権にせよ生活支援にせよ制度的にそこから見直す必要がある。税制上,在日朝鮮人が平等に扱われていないなら,今回の「高校無償化対象除外」もある意味で特別措置とみなしうる。しかし,いずれ早々に平等にすべきである。

まだ外国人が少ないうちはこういう差別は大きな問題にならないかも知れない。しかし,少子化が進む一方で,アジア,中東から仕事を求めて日本にやって来る人はどんどん増えるはずである。だって給料の高い日本人よりも(彼が勉強しかできない,あるいは勉強すらできない,文句ばかりの自己中なヤツだとしたらなおさら),どんな仕事でもまじめにこなす外国人のほうが企業にとって "経済的搾取対象として" 有用だからだ。外国人がたくさん居住するそういう環境で,日本人による差別によってお互いの民族意識が刺激される。すると,外国人の数に応じた規模で憎み合いが日常化し,社会が内部から崩れてしまう。そこに米国・中国・ロシアなど,多民族統治に悩まされて来た筋金入りの大国が己を棚にあげて「不当な日本人」などとつけ込んで来て,問題を焚き付ける。これは,旧ユーゴスラヴィアやトルコ,アルメニア,アゼルバイジャン,グルジア,アブハジアなどの民族紛争の姿を見れば明白ではないだろうか。だからといって排外主義(*)に走ると,国際世論はいよいよ許してくれず日本は袋叩きに会い国益を失うことになる。国内の制度的差別を実質的に撤廃しないと,危険な民族主義がいつでも火を噴くような怖い世の中になってしまうと思う。日本は「単一民族国家」だと信じている日本人が多い。このメンタリティはグローバリズムの前では弱さでしかなく,単一性を根拠とする家族的国家観はただ現実を曲げる無邪気でしかない。

民主党はマニフェストからこの辺りの感覚を十分わかっている,と私は思っていた。でも,もとより民主党には,自民党と同じで相当な右翼国家主義者もいる。政治思想において民主党と自民党の根本的な違いが,私にはいまだに皆目わからないくらいである。政権を取ったら「国民の声」に従うとばかりに,マニフェストを撤回して勝手な方向に行きはじめるのではないかと私は危ぶんでいたが,いよいよその徴候が見えはじめたように思う。


(*)産経新聞などの右翼マスコミは,外国人が増えると治安が悪化し,日本の伝統が失われる,などとバカなことを植え付けようとしている(例えば,ここを見よ。インタビューを受けた話者の引用として,巧妙に排外主義を焚き付けようとしている)。日本の伝統など,在日外国人などは縁もゆかりもないところで,もうすでに失われているのがわからないのか。在日外国人ゆえに失われた伝統って何? 伝統が外国人ゆえに損なわれることに一抹の真理が仮にあるとしても,意識的に伝統を守ろうとする少数の人は,在日外国人に依存せず存在する。また,「治安の悪化」についても,外国人増加から来る悪化が仮にあるとしても,その要因分析をまったく議論することなしに,抽象的な不安を煽り立てているに過ぎない(先に挙げたリンク記事で言えば,「さまざまな苦情」って具体的にどんなこと? そんなことが起こる背景を,なぜ問題提起しないのか?)。外国人が犯罪に走りやすいとしたら,それは日本人による陰陽の「差別」と,それに起因する「貧困」があるからじゃないんでしょうか? ヤクザに朝鮮人・部落出身者が多かった理由がなぜ産経新聞記者にわからないのか。彼らがヤクザを正面から見つめ取材することのできない上っ面の記者,ヘタレ・ジャーナリストでしかないからである。