トヨタ問題

世界のトヨタがいまリコール問題で大バッシングを受けている。もちろん問題を増幅している原因はトヨタそのものの大企業病的対応にあるわけで,企業として社会的責めを負うのは仕方がない。でも,これが政治的に利用されているとなると,少し考えさせられる。2000 年代以降,米国が金融経済にシフトし,製造業の興隆に手を抜くようになってから,この手の問題で日米摩擦をあまり目にしなくなったのだが,金融不況・ドル安の影響でまた真面目にモノ作り・工業製品輸出に取り組みはじめた米国は,いま再びテクノロジーのライバル・日本叩きを大々的にはじめたようである。米国はこの手の国際問題については与野党・マスコミがうまく結託するので動きが素早い。次はキヤノンのカメラ特許紛争か,富士通のスーパーコンか,などと私は妄想しているのである。

米国では — これが彼らの「政治的」習性なのだろうが — トヨタ欠陥車への抗議デモがトヨタ社ではなくなぜか日本大使館の前で行われた。これは,米国が国を挙げて日本を叩こうとしている徴候ではないだろうか。技術立国の日本の鼻をへし折るには,テクノロジーの欠陥を拡大鏡に写して世界にアピールするのがもっとも効果的である。これは米国の常套手段である。日本の大企業をターゲットに,製品の不良,特許の侵害,技術のパクリ,不正輸出入を摘発して,全世界に向かって大いに騒ぐわけである。問題そのものは事実なのだから誰も文句が言えない。日立・三菱の IBM 産業スパイ事件,ミノルタのコダック特許紛争,東芝の COCOM 違反などなど。ミノルタはこの特許侵害で米国の裁判所から 100 億ドル近い賠償金支払いを命ぜられるとともに,「パクリ企業」として全世界に汚名を流してしまった。日本は海外の一般の人々からはパクリ名人だと考えられているのである(だから,日本人が口先だけで中国人をパクリだと騒いでも,目くそ鼻くそを嗤うと思われる)。トヨタ問題の米国での騒がれようを見ていると,米国はおそらく中国製品に対しても同じようなやり方でバッシングをすると思う。中国に対しても米国は巧みである。Google 問題で民主化問題・軍事問題を巧妙に絡めて,サイバー市場において中国バッシングを行っている最中である(もちろん,日本と違い中国は正面から応酬している)。

米国を「政治的」だと非難するのは,しかしお門違いというものである。そういうのを「逆ギレ」というのである。彼らの戦略をむしろ日本も学ぶべきだろうと私は思う。最近,中国製品が日本のみならず世界を席巻しつつあり,工業製品の価格競争では言うに及ばず品質においても,日本はおそらくもうしばらくすれば中国に追い越されてしまうだろう。おまけに,いまの日本国民は足手纏いの子供が嫌いで,次世代を育てる気概のない国になり下がってしまっているのだ。そんなこんなで,国力は間違いなく奈落へころげ落ちて行く。だから,一企業・業界の問題とせずに,政府も関与して国の産業戦略を立ててくれないと,私は不安でしようがない。そうでない限り,防衛費なんかいくら増やしてもまったく意味がない。もはや経済の帝国主義の時代なのである。戦争なんてやる前に経済が破綻して,食うに困るハメになる(そもそも,戦争に行く若者がいない)。「品格」ある国などと自己満足している場合ではない。「品格」を尊ぶのは国が老いている証拠だ。

バカな反中日本人は中国人のパクリ騒動が大好きで,ことあるごとにネットで「またやりやがった」と面白がっている。裁判などの公的な場で争って白黒付けない限り,「パクリ」への非難は被害妄想あるいは自己優越の自己満足に過ぎない。端からみていると,ネットで面白がっているのには,目くそ鼻くそを嗤う滑稽すらある。そもそも世界では日本人のほうが工業製品のパクリではつとに有名なのだ。ヤジを飛ばして嗤うのではなく,米国を見習って,きちんとパクリの根拠,製品の品質の問題を法的に示して,「知的財産権の侵害」や製品品質の欠陥を突いて,公開の場で争うべきなのである。そして,米国を絡めて米国のメディアから発信させれば(なぜなら,「品格」ばかりを大切にする日本のメディアは国内でしか通用せず,国際的影響力が皆無だから),全世界で中国製品の信頼が失われ,日本製品の価値が高められる(もちろん,当該中国製品に「パクリ」,「製品欠陥」があるという前提での話である)。そのためにこそ,著作権・特許権の保護やその登録奨励・不正摘発政策に力を入れる。日本は特許権において国際的に超優良国であり,その強みの活用を国家戦略とする十分な基盤がある。「食の安全」問題については結構「政治利用」されているのだけど,日本の食品産業がすでに中国に大敗している以上,それは日本食品産業の競争力強化というよりも,反中世論を煽ることにしか役に立っていないし,中国にとって脅威とはなりえない(つまり,「やっぱり国産だよね」の自己満足で終わっているだけでなく,逆に高いものを買わさせられ生活レベルを自ら落としている)。

なのに国会はカネ疑惑などでの足の引っ張り合い,ネットやマスコミは中国の「悪口」に始終している。「悪口」にはいくらでも「悪口」で対抗され,それこそ不毛な循環に陥るだけなのに。そうなると人口の多い国には太刀打ちできません。政府は米国が言うことには唯々諾々として従い,逆に国内企業の首を絞める方向に喜んで動く。製品開発スピードを鈍化させる管理規制を米国は日本に要求し,日本政府はありがたがってその提案を受け容れるわけである。東芝 COCOM 問題に端を発して,日本の企業の社内輸出審査に掛ける手間と時間がどれだけ増えたことか! トヨタが企業体力とともに世界的名声を落として終わりでは,日本人としてちょっと寂しいではないか。