うちは娘の中学校の PTA の役員をやらさせられている。文化祭をテーマとした PTA 会報を出すというので,妻がその作成を担当し,私がパソコンで文書データを作るということになった。これまでの会報文書データに雛形はなく,好き勝手に作ってよいとのことだったので,LaTeX で制作することにした。
私にとって,LaTeX 文書作成はもちろん趣味の領域でもあり,ロシア語,パッケージドキュメントの組版以外は,まじめに実用文書を組んだ試しが数えるほどしかない。そもそも LaTeX というソフトウェアは科学技術論文,一般書籍の組版に最適化されており,いわゆる DTP 要素の強い会報には向かない,とわかっていた。それでも LaTeX が好きなので,敢えて LaTeX で挑戦。multicolumn でスッキリしたレイアウト設計を基本とした。掲載写真とそれに付加するコメントとを整列させる命令や,未入手原稿のエリアを指定文字数分確保する命令など,いくつかマクロを書いた。外部からの要請で文書を作るとなると,これまであまり注力しなかったグラフィックス関係の組方で悩むことが多く,インターネットの情報を探索しつつ解決し,結構勉強になった。
過去の会報は A3 用紙の表にページ 1 と 4,裏にぶち抜きのページ 2 と 3 を配置する和綴イメージだった。これを中折にすると 1 枚だけの右綴小冊子となるわけだ。今回の版面設計も,これに合わせることにした。A3 横 2 ページ(見開きで 4 ページ)のファイルを作るのに,まず A4 縦の 2 ページ,A3 横の 1 ページ(見開き 2 ページ)を個別に LaTeX で組版し,PDF を生成した。Adobe Acrobat 7.0 を用いて,A4 縦 PDF の余白編集をしたあと A3 横見開きに合成した(2 UP 印刷)。A4 縦見開き合成 PDF と A3 横 PDF を,A3 横 2 ページ(見開きで合計 4 ページ)の PDF 1 ファイルに纏めて成果物とした。dvipdfmx による個別 PDF ファイルの合成には,pdftk ユーティリティを用いた。Acrobat 7.0 にも PDF 合成機能があるが,これだと文字の欠落が出てしまったので使わなかった(この原因が dvipdfmx にあるのか Adobe Acrobat にあるのかは不明)。
画像に文字をオーバーレイさせる方法を知ったのは今回の収穫。簡単にそのメモをここでしるしておく。
写真にコメントなどを上書きしてレイアウトしたいとき,Microsoft Word ではテキストボックスを画像の上に作成してテキストを入力し,枠と塗りつぶしを消去すればこれができる。LaTeX の場合は overpic パッケージにより実現可能である。teTeX ならはじめからインストールされているようである。
overpic.sty は graphicx パッケージを前提とする。プリアンブルには,次のように指定しておく。
\usepackage[dvips]{graphicx}% dvipdfmx なら dvipdfm オプション \usepackage[abs]{overpic}
overpic 環境のなかで,ベースとなる画像ファイルを指定し,それに重ね打ちする文字を \put 命令でレイアウトする,というのが使い方の基本である。\put 命令にテキストを位置づける座標を指定する。その値の調整がやっかいではあるが,overpic 環境のオプションに grid を指定すれば,位置グリッドが確認できるので,これをもとに,\put(x 座標, y 座標) を決める。y 座標は文字ボックスのベースラインをポイントすることに注意。
簡単な例として,楽譜を背景にした合唱発表会の曲目一覧を作ってみた。背景画像は,デジカメで撮影した楽譜(バッハ・無伴奏パルティータ 2 番)の写真を Adobe Photoshop, Illustrator で加工し,EPS 形式で保存したものである。テキストの着色には color.sty を使用した。グリッド付と,それを外した本来の組版成果を示す。
原稿は以下のとおり。\put 命令で重ねる文字列は,複数の段落をなす場合を想定し,\parbox 命令に入れている。
% -*- coding: utf-8; -*- % 合唱発表会曲目一覧(overpic.sty の試験) % (c) 2009, Isao YASUDA, All Rights Reserved. \documentclass[b5paper]{jsarticle} \usepackage[dvips]{graphicx,color} \usepackage{lmodern} \usepackage[T1]{fontenc} \usepackage{textcomp} \usepackage[abs]{overpic} \pagestyle{empty} \definecolor{blue}{cmyk}{0.94,0.54,0,0}% NavyBlue \def\baselinestretch{0.8}% \begin{document} \parindent=0pt\relax% \begin{minipage}[t]{80mm} \begin{overpic}[width=80mm]{musicnote.eps}% 画像指定。試験時 grid を指定 \put(35,245){% 文字テキストの座標を指定 \parbox[t]{6cm}{% 重ね打ちする内容 \parindent=0pt\relax% \hspace{5zw}{\gtfamily 合唱発表会曲目}\\[1.1zw] \small\bfseries\color{blue}% \makebox[9zw][l]{1学年\quad 夢の世界を}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 1--1\quad 夜汽車}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 1--2\quad この地球のどこかで}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 1--3\quad Let's search for tomorrow}\\[.5zw] \makebox[9zw][l]{2学年\quad COSMOS}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 2--1\quad 明日に渡れ}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 2--2\quad 遠い日の歌}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 2--3\quad 時の旅人}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 2--4\quad 予感}\\[.5zw] \makebox[9zw][l]{3学年\quad 信じる}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 3--1\quad 君とみた海}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 3--2\quad IN TERRA PAX}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 3--3\quad 虹}\\[.5zw] \makebox[9zw][l]{昼休み合唱団}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 青いベンチ}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 瑠璃色の地球}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 手紙}\\[.5zw] \makebox[9zw][l]{PTA\,\&\,職員}\\ \makebox[9zw][l]{\qquad 君をのせて}% }}% \end{overpic} \end{minipage} \end{document}
今回 LaTeX で作成した文書は,おおむね妻の眼に適うものになった。とはいえ,LaTeX で文書を作ると,和文の斜体がないなどの事情について,ワープロのマナーに慣れた人から「え,どうして?」テキな不満をぶつけられることがある。和文には斜体という組方の伝統がないからと説明しても,どうも納得してもらえない。まあよい。LaTeX の版面の素晴らしさに惚れ込んでしまうと,吹出しやら,和文の斜体強調やら,波形下線やら,倍角文字やら,ボックス枠線やらが下品な装飾に見えて来るから不思議である。
pdftk ユーティリティの活用について触れている書籍をあげておく。さすがオライリーの Hacks シリーズである。