パイオニアの危機

大手電機メーカー・パイオニアが昨年 9 月の世界同時不況のあおりを受け存続の危機にさらされている。6 日のニュースでは,2009 年第一 Q の赤字幅は縮小したものの,ホンダなどからの出資案件がなかなか纏まらず,依然経営が流動的なようである。特許権を売っぱらって損失をカバーする姿が,私には末期的に映る。

パイオニアといえば古くからは高級ハイファイ・オーディオ,最近では光ディスク,プラズマ・ハイビジョン・テレビ,カーナビゲーション・システムにおいて,玄人受けする高性能製品を製造・販売して来た。オーディオが売れなくなり,光ディスク関係では LD 事業が DVD により壊滅させられ,テレビ市場で Panasonic,SONY,シャープとの競争に敗れ,独壇場ともいえたカーナビについても自動車販売不振の影響をモロに受けた。製品は一流だったのに,時代の読みが甘かったということかも知れない。

パイオニアは一流品質の製品を供給できる一流企業である。私もパイオニア製の LD,DVD プレーヤを愛用している。お金があればハイビジョン・テレビもパイオニア製品を選びたいところだったのに。でも,玄人受けするだけで売り上げが伸びず,競争に勝てない結果,市場から撤退を余儀なくされてしまうわけで,私の好きなメーカーだっただけに悲しい。ここは,創業時の基本に立ち返り,もう一度得意分野に集中し,やり直すことが必要なのか。なんとか盛り返してもらいたいものである。

パイオニアの危機を経営手腕の問題だけに還元してしまう気に私はなれない。これは日本の製造業の象徴的姿のように思われるからである。もう,よいものを作るだけではダメということを通り越して,ちょっと気のきいた機能を付加する以外は徹底的に安くし,ブランド力で売らないと,すぐ市場から脱落する。いま中国製品は「安かろう悪かろう」で Panasonic や SONY の敵ではないように見える。しかし,技術革新で安さに品質はすぐ追従してくる。安価な労働力と高品質によって高度経済成長期の日本製品が欧米製品に対してなしたように,中国製品が日本製品を叩き潰すのは時間の問題である。半導体市場では日本はすでに韓国製品にやられているのである。

中国は,英米型の金融至上主義を採らなかったおかげで,この世界同時不況の影響が比較的小さい。エネルギーとモノ作りとを基本とした経済基盤によって,いまや絶大なる活力を持っている。また一方,米国の国債を大量に保有し,米国財政の首根っこを押さえている。オバマは胡錦濤に歯向かえないのである。中国が米国債を手放すと言った瞬間に本当にドルは大暴落するだろう。エネルギーも金も工場も人もふんだんにある。最強なのだ。

中国は日本の技術・特許,ブランド力が喉から手が出るくらいに欲しい。そういう情勢を考えると,ホンダが出資を諦め,公的資金注入がなされない場合,パイオニアが中国資本によって買収される可能性も出て来るように思う。パイオニアは優れた GPS 技術を持っている。そうなると,技術とブランドだけ持って行かれて,日本人の雇用は捨てられるだろう。こうして日本の顔をした中国製品のブランドが高められて行くだろう。

私がパイオニア業績不振の先行きについて,いちばん怖いと感じているのはそういうことなのである。「中国人は日本人ほど優秀でない」と本気で信じている,無邪気な反中日本人がいっぱいいる。そういう人達はそのうち中国人に使われるはめになる。中国人は優秀である。そのうち,日米中の特許紛争が大問題になると思う。