雑小説というか「軽い」読み物を立て続けに三冊読んだ。梓林太郎『奥能登・幻の女』(光文社文庫),南英男『覆面猟犬・私憤』(徳間文庫),睦月影郎ほか官能怪異短編集成『妖炎奇譚』(祥伝社文庫)。
いずれも,サラリーマンが出張で長距離移動をする間に,まずスポーツ新聞,週刊誌を処理したあと,持て余した時間を潰すために最後に手に取るような,そして読んだあとは座席ポケットかゴミ箱に捨ててしまって顧みない,そういう娯楽小説である。読む前と後とで己の立ち位置が 1 ミリも変わることのない,そういう人畜無害の文学である。
それぞれ,旅情ミステリ,犯罪サスペンス,官能ホラーである。『幻の女』はなにが書いてあったかもう忘れました。ぬぼーっとした主人公刑事の印象だけが残る,まさに幻のような作品でした。『私憤』には「北朝鮮を空爆しろ,日本も核武装しろ」的右派を侮蔑するような痛快がありました。『妖炎奇譚』は珍しいエロ怪異譚集で,異界の女との濃密なセックス(それらが「夢のような」ではなく,事細かな現実的描写であるのは論を俟たない)によって 18 歳に若返り,人生を生き直すスキ男の話など,なんとも仕合わせで毒・浪漫のない物語ばかり。不満が残りました。エロスは地獄落ちと結合しないとやっぱダメですよね。
この手の小説はどれも,陰に陽にエロティックな描写に事欠かないわけで,まるでお化け屋敷で出て来るいつもの出し物のように結構が決まっている。だからなんの不安もなく楽しむことが出来る。十代前半の少年少女なら鼻血が出てもよさそうな数頁もあるにはあるけれど,オジサンには3本目の低カロリー発泡酒みたいなものである。哀しい。
最後にひと言。それでも,それなりに面白いんだからしようがない。作者はいずれもプロなんである。ワンコインにせよ野口英世一枚にせよ,それに見合う楽しみを与えてくれる。それだけの力量には感服。いずれまた,これらの作家のカストリにほんのり酔わせていただきます。